モダンジャズを創った張本人、マイルス・デイヴィスの自伝。
文章を書いたのは、おそらくクインシー・トループであろうが、中山康樹の訳とあわせて、マイルスの人物像がよく出ていると感じる。
文庫の帯にはこう書かれている。
「ヒップな奴だけ読んでくれ!」
と。
もちろんこれはマイルスが付けたのではなく、訳者の中山氏が勝手につけたのだろう。
しかしマイルスなら言ってそうな感じなのが素晴らしく、私もこの帯に引き付けられて、中身を確かめずにレジに持って行ったものだ。
「まあ、聞いてくれ。」で始まる冒頭に続くのは、
「オレの人生で最高の瞬間は・・・セックス以外のことだが、それはディズとバードが一緒に演奏しているのを初めて聴いた時だった。」
というフレーズ。
この一文で一気に引き込まれた。
つまり50年に渡ってジャズ界の第一人者であり続けたマイルスにとってのビッグバンをここで追体験できるのだ。
Bことビリー・エクスタインのバンドでディズとバードに混じってラッパを吹くマイルスだが、鼻息だけ荒くて何もできない「小僧」であっても、メンバーからは随分可愛がられたようだ。
歴史に名を残す人間の一つの共通点は、大物から可愛がられるとことに尽きる。
金持ちの家に生まれたマイルスだが、一人前にガールフレンドも作って初体験も済ます。
一方で美人の局部を眼前にしながら、何をすればよいのかわからないといった「ウブ」な側面も見せる。人間マイルスだ。
そして多くの様々なミュージシャンとの遍歴が綴られる。
ディズとバードをはじめとして、レスター・ヤング、ファッツ・ナバロ、ミルト・ジャクソン、セロニアス・モンク、、、そしてジャズクラブ「ミントンズ」でビバップが始まった瞬間についても語られる。
当時のニューヨークはとにかく凄いことが起こっていたらしい。
興奮を抑えられない。
JJジョンソンが「コンファメーション」の細部を教えてもらいに朝6時にマイルス宅を訪れるシーンなどは笑えるとおもに、当時に熱気がむんむんと伝わってくる。
そしてチャーリー・パーカーと言う人間がいかに天才で迷惑な奴だったかも、マイルスは隠さず語ってくれる。
マイルスは決心する。
当時通っていたジュリアード音楽院を辞めてジャズに身を埋めることを。
そのことを父親に言うセリフが当時にニューヨークを端的に表している。
「ダッド、ニューヨークでは何かが起きているんだ。今、音楽もスタイルも変化していて、バードやディズと一緒に、オレもそのムーブメントに加わっていきたいんだ。だから、白人一辺倒で、興味のあることを何も教えてくれないジュリアードを辞めるってことを伝えに帰ってきたんだ」
ここから文字通り「帝王・マイルス」のストーリーが始まるのである。
本書ではこの後も、ジャズ好きには堪らない話が事細かに綴られていく。
デューク・ジョーダンがバンドの厄介者で、パーカー以外のメンバーから嫌われていた話。
デクスター・ゴードンからは服装が「ヒップ」でないから一緒にいるなと言われた話(最高)
バド・パウエルが意味なくしゃべらずいつも微笑んでいる話。
そんな些細な話がジャズファンには堪らないのだ。
続きは読んでからのお楽しみとしよう。
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