【書評】「大丈夫大丈夫だいじょうぶだから (続)」阿部敏郎著

大人気ブログ「いまここ」の著者阿部俊郎氏が2005年に自費出版で出した一冊。アマゾン中古で入手。今でこそ大手出版社からベストセラーを連発する阿部氏であるが、本書の出版社は単に「阿部俊郎」とあるのみ。ISBNは取っているので一般書点にも流通されたのだろうが、本当に手作り感満載の一冊である。阿部氏の他の著書については、ご本人や出版社から贈呈頂いているが、ここはあえて本書を評するところが、私の天の邪鬼なところである。
一読した感想は、他の著書と何も変わっていないこと。私ごとで言うと、私は2004年から毎日ブログを更新しているが、それから8年、様々な経験をし、気づき、文章力自体も向上しているのだろうが、著者は何一つ変わっていない。しかし、これはすごいことである。著者の伝えたいことは常に一つ。単にその一つを表現する角度が違うだけで、どこまでも一つなのです。なので、もし、本書が最新刊として出版されたところで、何の古さもないであろう。
本書はラジオパーソナリティ時代に視聴者から寄せられた質問に答える、一問一答式で進められる。テーマは「会社のこと・仕事のこと」「家族のこと・人間関係のこと」「心の持ち方」「人生観・人間観」「ひとりごと」からなり、それぞれに細かい質問が寄せらている。ブログや人柄の通り、全体的に優しい雰囲気があるが、ところどころに突き刺さる。
例えば「仕事で失敗して落ち込んでいる」という相談に対しては、「人間万事塞翁が馬」の話を優しく聞かせて心を安らかにする。かと思うと、「やりたいことがあるが会社に迷惑をかけそうだ、今の仕事を続けるべきか辞めるべきか」については、「本当にやりたければ、やってるよ」と両断。行動しない人というのは、言い訳の名人。まったくその通りである。
このような具体的な相談も面白いが、やはり著者の深い人生観こそが聞かせどころではないか。例えば「死後の世界」や「悟り」について。「死後の世界」は、、、そんなバカなこと聞く奴に限って、死んだら「生きるとはどういうことですか」と聞く。つまり、死ねばわかるのだから、今を生きろ。それが答え。そして「悟り」とは・・・その答えはいつも極めて明快である。
そして「神秘体験」について。プロフィールにはしばしば「30歳の時、突然の神秘体験を・・」と書かれてあるが、著者は「神秘体験」という言葉に極めて慎重である。そしてこの「神秘体験」という言葉にこそ読者のある種の「期待」があるのだろう。
一般に「神秘体験」と言うと、どうしても「特別」な何かを期待してしまう。まるで宇宙人にでも会うかのような、特別な体験をそこに求めるような。しかし、著者はあくまでその体験を「当たり前」の状態に置く。確かにきっかけとしては、衝撃的であったとしても、それによって突然、何か特別な人間になるわけではない。
しかし、私たち人間は社会的な条件付けにまみれながら生きており、その条件付けが「当たり前」を覆い隠している事実がある。そこで、「当たり前」として生きる者が少数派であれば、それは特別な存在と呼べるのかも知れない。しかし、本来、目指すべき、気づくべき姿とは、むしろ「当たり前」を「特別」だと思わない境地のことだろう。
そうなるためには、特別な方法は必要ない。確かに社会的条件付けによる自我のおしゃべりを抑える習慣づけは大切かも知れないが、死ぬときにはどうせわかること。早いか遅いかの違いはあれど、「神秘体験」なる幻想を求めるのではなく、今この瞬間瞬間をどれだけ生きられるか。そこに本来の姿があるのだろう。
そして本書を一読すると、まさに「当たり前」のことしか書かれていない。それをどの程度、「当たり前」ととらえらるかは読者に委ねられたことではあるが。
大丈夫大丈夫だいじょうぶだから (続)/阿部 敏郎

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