プロの「拝み屋」による願望実現の手引書。「祈り」によっていかにして願望を実現するべきか。細かい理屈はともかく、祈って祈って祈り倒すこと。それにより願いは叶う。しかし、それはときとして他人を貶めることにも使われる。その力のことを「呪詛」と言うが、プロの拝み屋への依頼の大半はその呪詛であるという。そしてなんと恐ろしいことに、呪詛には呪詛で対抗する力もあり、ときとして呪詛によるサイキック戦争が繰り広げられるのだとか、いやはや恐ろしい話である。そんなことが現実に行われているのだ。
著者はプロの拝み屋で様々な依頼を受け、実際に結果を出してきたからこそプロと名乗れるのだろう。願望実現にせよ呪詛にせよ、どの程度が実際の「祈り」によって効果があるのかは実のところはわからない。呪術中心の前近代社会ならともかく、今の時代に「祈り」の力がどの程度担保されるのか客観的になる必要はあるだろうが、それでも一定程度は、もしかしたら想像以上にそのような世界を信じている人が多いのかもしれない。
個人的な見解としては、「祈り」とはそれ自体に特別なエネルギーがあり、それにより効果があると見るのではなく、強い「祈り」が自ずと信念や行動に大きく作用し、その結果として願望実現したり、ときには誰かを呪い貶めることになるのであろうか。なるべくなら他人を呪う「呪詛」とは無関係でありたいと思うのだが、本書の中で特に気になったトピックがそう、「ネット呪詛」なる耳慣れぬ言葉についてである。
これは最近の傾向とのことであるが、今、「ネットカルト」が問題になっていると言う。インターネット上でプチ宗教・疑似宗教が作り上げられ、読者との関係において完全に「教祖と信者」という図式が形成されているそうだ。しかし、その教祖の言うこと、書くことはほとんどが支離滅裂、デタラメであるが、一度、その教祖に引き込まれたら内容の性格さや質など関係ない。教祖の言うことが絶対となるのだ。
そしてその教祖に対して批判的な言動を取ろうものなら、呪詛によりその攻撃されることもあると言う。さらに最近はネットの技術によりサイバー呪詛をかけることもあるそうだ。著者は具体的に何をさして「ネットカルト」と言っているのか言及はされていないが、いくつかのキーワードからおおよそ特定はできる。もちろんそれじゃない可能性はあるが、そうでなくても似たような話は確かにある。
なぜこのような支離滅裂なまでのネットカルトに人々は熱狂するのか。それはまず仏教や神道など伝統宗教への求心力が弱まったこと。1995年のオウム事件は新興宗教であるが、元は仏教・密教という伝統宗教からの派生である。伝統宗教は果たしてオウムに対する総括はしたのだろうか。おそらくしていまい。実のところ伝統宗教もオウムの被害者である。それこそ真言宗など伝統的なきちんとした仏教であるが、仏具を用いたり呪文を唱えたりするだけで「怪しい」と思われることが多々ある。そして求心力は失われるばかりで、かといってキリスト教やイスラム教も馴染みがない。その隙間を縫って出てきたのがスピリチュアルであり、さらにお手軽なネットカルトである。
読者は簡単にネットにアクセスするだけで、家に居ながらにして、無料で「立派な話」が読めてしまう。毎日同じ時間に更新されようものなら、神のご神託のように受け取ってしまう人もいるだろう。本来は各地域の伝統的な宗教・宗派が土地の祭りやコミュニケーションを通して、しっかりと教育しておくべきところ、もはや「宗教」というだけで毛嫌いされるようになった。しかし人々は宗教から完全に卒業したわけでもなく、相変わらず何かに救いを求めているのも事実。そこにネットカルトはフィットするのだろう。そして依存してしまう。ただそれだけのことだ。
本書については、もっと「ネットカルト」の問題に踏み込んで欲しいと思ったが、個人的に補足するなら、近づいてはならないネットカルトの特徴として
・匿名での配信
・スピリチュアルのみで完結
・伝統宗教と関わりがない
がある。匿名を避けるのはそこに責任性がないから。神秘性は教祖にとってかっこうのスパイスになるが、匿名でなければ言えない「真実のメッセージ」など存在しない。スピリチュアルのみで完結というのは、スピリチュアルオタクのみを相手にしており、一般企業や公的機関との関わりがないもの。まともなところから相手にされていない証拠である。同様に伝統宗教との関わらないどころか、批判し合っていたりすると、避けた方が無難であろう。筆者の言うとおり、ネットカルトは安易に依存させる性質があるが、批判したりすると呪詛攻撃を受ける可能性もあるので、ようは相手にしないのが一番だろう。え?私は大丈夫かって?もちろん大丈夫。なんなら呪詛返しも簡単。
それはさておき、本書の趣旨である願望実現についても少々触れよう。実は願望実現や自己啓発に詳しい人にとっては、さほど目新しい情報もない。何々の真言は何々の効果があるなどは、類書と似たりよったり。祈って祈って祈り倒して、あとはすっぱり忘れる。それもその通りだが、よく見聞きする話である。
個人的に「お!」と思ったのが夢(夜にみる)を用いた願望実現法。願望は潜在意識が叶える。夢は潜在意識のメッセージ。これはその通り。さほど意味のない夢もあるが、大いにある場合もある。そしてこれは秘法の一つであるが「見たい夢を見る」ことでその通りに願望を叶えることができる。これは実は、ある著名セラピストが「来世に一つだけ持って行きたい方法」としてほとんど外部に漏らさなかった方法。これを知るには全財産を差し出す必要があるとの噂もあった。だけど、それで全財産以上を取り返せるのなら安いものだ。その方法が簡単ではあるが、なんと本書で紹介されてあった。
全体としてインタビュー形式で進められていることからも、とても読みやすく、そして内容はそれなりに面白い。部分部分はもうちょっと踏み込んで欲しかったりするので、やや未消化感は否めないところであるが。
祈りの力―願望実現へのアプローチ/中村 雅彦
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人生を変える100日ブログ:73日目