■無駄な作業をして出世した男

こんばんは、行動強化コンサルタントの石田久二です。
会社員時代、非常に優秀な同僚がいました。入社年度は同じですが、私より歳は下の新卒社員です。彼は一度は入社試験で落とされたのですが、たまたま神社の絵馬にその会社志望の念願を書いていたところ、偶然にも当の社長がそれを見て、急きょ本人を呼び出して無理やり内定を出したなど、ちょっと神がかり的なエピソードを持つ社員でした。そのときは別の会社の内定が決まっていたのに、それを無理に辞退させたそうです。
その彼が入社して数日、企画書を書く仕事が与えられました。と言っても、入社間もないので、骨子は上司が作り、本人はデザインなど周辺作業を担当しました。そのとき、彼はなんと驚くことに、企画書に貼りつけるたった一つのアイコンを、ほぼ徹夜状態でイラストレーターを用いて自作したのです。そのアイコンを作るのに費やした時間は5~6時間ともかかったそうです。
彼は周囲からバカと言われました。企画書にポイント的に貼りつけるアイコンなど、ネット上のフリー素材にいくらでもあります。時間かけて探しても5分もあれば十分でしょう。それを5時間もかけて自作する必要性は、少なくともその企画に関してはありませんでした。そんな時間があるなら、酒飲んで親睦を深めるとか、早く帰ってゆっくりする方が効果的です。
もう、そんな無駄作業をする彼に対して、周囲はけちょんけちょん。研修期間なので残業代を出す必要はないにせよ、事務所の電機代はかかるし、何よりつまらない作業のために社員を疲弊させては会社の問題になります。彼は、すっかりダメ社員の烙印を押されそうになりました。ただ、内容には関係ないと言いながら、できたアイコンの出来栄えは確かに見事なものでした。
しかしその彼は2~3年後、会社の支柱となる新規事業を立ち上げ、2段階昇格し本社に栄転します。もっとも、彼が頭角を現し始めたのは、そのアイコン事件から半年もたっていなかったのですが。
会社はとかく「効率」を求めます。しかし「効率」を高めるのは、結果を出してからです。結果も出さないのに効率を求めること自体、ビジネスではあり得ません。それは自分で事業をするとよくわかります。3時間で10万円の仕事と、10時間で13万円の仕事と、どちらを選ぶべきか。サラリーマンだとおそらく10万円の仕事でしょうが、経営者や事業家は間違いなく13万円の仕事です。時間はどうであれ、キャッシュの高い仕事を選ぶのがビジネスの基本です。もちろん事業がある程度軌道に乗り、何もせずとも仕事が入ってくる段階になれば、効率の悪い仕事は削るべきです。
しかし、今から事業を育てようとする段階で、何より優先すべきは効率ではなく、結果です。では、会社の新入社員はどうあるべきか。周囲は確かに効率を求める発言をするでしょうが、経営者の立場からすれば、効率はどうであれクオリティの高い仕事を求めるはずです。一つのアイコンに5時間を費やすのは、確かにやり過ぎ感はありますが、彼はそれでイラストレーターの使い方をマスターし、次は同じものを5分で作ることができたと思います。それは彼の仕事ぶりを見ても明らかでした。
ビジネスは決して要領や効率ではありません。クライアントが求めるのは、結果です。効率性などはこっち側の論理であって、お客様のためではありません。ビジネスはいかに速く効率的に片付けるか。そうではなく、ビジネスとはどれだけ「心を込めるか」なのです。
その点で言うと、5時間でアイコンを作った彼は、それだけその仕事に心を込めていたのでしょう。そしてその姿勢はそれ以外の仕事にも通じ、あとは慣れによって勝手に仕事の効率は高まっていきます。効率ばかり求めて、心の入っていない仕事はいずれ淘汰されます。当たり前の話ですが、仕事はお客様に満足を与えてナンボです。そのためにはどれだけの時間をかけてもいいし、サラリーマン世界でも、それができる社員から出世していくのは当然のことです。ちなみに彼は数年後、ある大手企業からヘッドハンティングされていきました。
一つの仕事にどれだけ心を込めるか。今の時期になると、入社当時のことをよく思い出します。


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