セラピストにして、今やベストセラー作家である石井裕之氏の一冊。
「ビッグコミックスピリッツ」という青年漫画雑誌の中のコラムを編集したものであり、通常は漫画コーナーに置かれていることが多い。
石井氏の名を有名にしたのは、日本に「コールドリーディング」を紹介した一連の著書によるであろう。
その他のものとしては、本業の催眠誘導、セラピーに始まり、モチベーションや願望実現に関するものなど、実に多作である。確かに内容が被る部分もあるが、どれも面白くためになり、石井ファンならば常に次作が楽しみであろう。
そしてこの「ホムンクスルの目」であるが、石井氏のほとんどの著作を読んでいる私が、もし一冊、何かと勧められたら、おそらく本書を紹介するであろう。
自己啓発やビジネス書に関心のない人もターゲットにしていることもあり、非常にわかりやすく(その分、文章は崩しているが)、一つ一つが読み切りで短いため、誰にでも手に取りやすいという利点がある。
しかし、だからと言って内容がお粗末なわけでは決してない。
主として人間関係、コミュニケーションを良好に構築する、または、自分の都合のよいように持っていくためのテクニックが分かりやすい例とともに紹介される。
とりわけ石井氏の「武器」とも言える「潜在意識」をうまく利用した方法論により、中には「禁断の」と言っていいものまである。
例えば「コールドリーディング」の本にも多く取り上げられている、石井氏の専売特許でもある「We/Meタイプ」によるアプローチ。
この概念と使い方については、もしかしたら、他の本を読まなくとも、この一冊で事足りるかもしれない。
また、セールスなどでも使用できる「イエスセット/ノーセット法」や「ダブルバインド法」、瞬時にラポールを構築する方法、都合よいイメージングで苦手意識を克服する方法、異性とうまく「やる」方法、など人間関係・コミュニケーションに関する使えるノウハウが惜しげもなく紹介されている。
中には本当に劇的に使えるものもあり、コツがわかってしまえば、他人とのコミュニケーションに関する恐怖はなくなるだろう。
しかし、あくまでコミュニケーションの入り口だと思ってほしい。
コミュニケーションが苦手な人の共通点はコミュニケーションを避けていること。
この本を読んだだけで、コミュニケーションがすぐに上手になるものでもない。
恐怖心を取り除くには役立つかもしれないが、スタートであってゴールではない。
石井裕之の数ある著書の中で、この一冊でテクニック的なことはほとんど網羅されているように思う。従って、石井氏のファンでなければ、この一冊で十分かもしれないが、正直言うと、あまりお勧めはしたくない。
なぜなら、多くの人に知られると困るテクニックも、決して少なくないから。
つまり、ややもすると、相手の心を手玉にとるような悪魔的なテクニックもサブリミナルに多く含まれているのである。
個人的には「子宮に話しかけろ!」がお気に入り。
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