「当たり前のこと」しか書かれていない。しかしその「当たり前のこと」をできる人が少なく、「当たり前のこと」をせずして成功を望もうとする人がいかに多いか、と言うことへの叱責から始まる。著者の言うとおり、当たり前の努力をせずに都合のいい成功ノウハウばかりを求めている人間は本書を読み進めるべきではない。だが、その「当たり前のこと」を今一度叩き込み、日々のモチベーションにつなげようと言う人間にとっては、まさしく「目の覚める」ような効果をもたらすであろう。
著者の主張はタイトルの通り「朝30分の勉強こそが成功の秘訣だ」というところにある。とりわけ「朝」の効用を強く主張する。まず「朝早い社長のほうが、業績がいい傾向がある」という事実を紹介し、そして「朝」こそが効率的に勉強するのに最も適した時間帯であるとする。その理由として夜は様々な非生産的な活動への誘惑が多いこと、そして著者の経験則的に「朝の方が夜よりも時間の進むスピードが遅い」ことを指摘する。
また「朝」は出勤や通学などその後のスケジュールが迫っているため、「時間制限」の効果により学習効率が高まると述べる。いずれも非常に説得力を感じさせる内容であり、何よりも著者の経験談であることにより既述に力強さが感じられる。
「朝30分の勉強」を実直に続けていることが成功への近道である。しかしながらその効果が実感できるのはいつの地点か。確かに効果のわからない継続はモチベーションを低下させるであろう。ここで著者は一つの基準値として「15ヶ月」を掲げている。水が100度で沸騰するように、継続も「15ヶ月」の地点でクリティカルポイント(沸点)に達し、そこから急激な変化と目を見張る効果が現れ始める。中間(グレーゾーン)は存在しない。15ヶ月続けることで、突然の変化が訪れるのだとの見解は多くの読者を心強くさせるであろう。
そして本書のユニークな既述に「ステージ別」の勉強方法がある。独身時代、新婚時代、ファミリー時代など人生のステージに応じた勉強方法があることを、現実的な形で提案している。微笑ましい感があり、これも著者の体験をベースに論じられているだけに参考になる部分は多いであろう。ただ、いずれのステージにおいても「朝の勉強」が重要であることは言うまでもない。
各界の成功者はとにかく同じことを毎日続けることを日課としている。野球のイチロー選手も野球を始めた当初から同じトレーニングの繰り返しであり、決して新たなノウハウを探し求めているわけではない。同じことがあらゆる業界についても言える。成功のための新しいノウハウを探し求めるよりは一つのことを何度も繰り返す。違った本を何冊も読むのではなく、同じ良書を何度も読む方がはるかに効果は高い。それによって情報は潜在意識に落とし込まれ人格の一つになるのである。同じことを継続する。まさしくその一点に尽きると言える。
個人的に面白いと思ったのが終盤にある「人脈づくりは後回しでいい」という既述。まったく勉強・努力をせず、能力を向上させようとしない人が、いくら人脈を広げようとしても有力者からは相手にされない。黙って能力向上に励み、実力がつけば、有力者は自然と寄ってきて人脈も広がる。だから人脈は後でいい。有無を言わせぬ説得力がある。痛快。
著者の言うとおり、本書は確かに読み手によって好き嫌いがはっきりするであろう。しかしそこがある意味、成功と平凡を分ける大きなポイントであることを認識していいかもしれない。
- 「朝30分」を続けなさい! (PHP文庫)/古市 幸雄
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