- マクドナルドの創業者、レイ・クロックの自伝「成功はゴミ箱の中に(GRINDING IN OUT)」。正確に言うと、マクドナルドをフランチャイズ方式にして全世界に広めた人物。日本マクドナルドの創業者である藤田田氏もレイ・クロックからフランチャイズ契約を結び、銀座に第一号店を出した後、今日のマクドナルドに至る。確かに藤田氏もすごい人物である。銀座三越の鬼店長に出店を掛け合って、無理難題を押し付けられた結果としてのこれ。郊外型のマクドナルドを都会の一等地に出店する先見力と度胸。さらに英語式発音の「マクダーナルズ」ではなく「マクドナルド」としたのも藤田氏。「何が流行るか」を身体感覚としても知っていた人なのである。
その藤田氏に影響を与えたレイ・クロックの自伝がこれ。私は伝記モノを好んでよく読むが、中途半端な成功本やノウハウ集よりもはるかに「真実」がある。その中の成功者の背景には必ず「考え方」がある。成功者は生まれたときから成功者ではなく、文字通り「成功した」のである。それを支えていたのがまさしく「考え方」。「考え方」だけが成功の原因だと言ってもいい。伝記モノはそんな「考え方」を臨場感ある言葉で知ることができる。
まず、このレイ・クロックは、最初は場末のピアノ弾きで、生計を立てるために紙コップのセールスマンを経験する。そのうちピアノは趣味と割り切り、紙コップのセールス一筋でそれなりの成功を収めるに至る。その後にミキサーの販売店を立ち上げ、全米を周っているときにマクドナルド兄弟と出会ったのである。最初はマクドナルドをフランチャイズで拡大して、そこにミキサーを売ろうという戦略であった。結果的にはアメリカを象徴する大産業を築いたのだが、実はマクドナルドに出会ったのは彼が52歳の時。
レイ・クロックの成功の背景には、凡人では対処しようのない苦労もある。その都度、「考え方」一つで困難を切り抜け、成功を勝ち取ったのだろう。そんなストーリーが数々の格言とともに展開されていく。レイ・クロックという人物はマクドナルドの創業者であると同時に「世界一、億万長者を育てた男」とも紹介されている。つまりマクドナルドのフランチャイザーをして次々と億万長者に仕立てていったのある。ただ、単純にマクドナルドのフランチャイザーになったから成功したというのではなく、その一人ひとりにその資質と努力があったことを認めている。その最大のエッセンスが最終章で発表いるが、それを見たとき「ドキリ」とした。それは、、、
「やり遂げろ」
ということ。本文を抜粋する。
やり遂げろ-この世界で継続ほど価値のあるものはない。才能は違う-才能があっても失敗している人はたくさんいる。天才も違う-恵まれなかった天才はことわざになるほどこの世にいる。教育も違う-世界には教育を受けた落伍者があふれている。信念と継続だけが全能である。
涙が出そうなフレーズである。信念と継続だけが全能。どんな境遇に生まれていようと、どんな学校を出ていようと、どんな能力であろうと、そしてどんなに歳を取っていようと、、、信念と継続があれば成功できるのだる。一度決めたらやり遂げる。とても勇気付けられる言葉である。
アンソニー・ロビンズの言葉に「人は一年を過信し、十年を軽視し過ぎる」というものがある。何事も一年やそこらでは身に付かないが、十年かければたいていのことはできてしまうということ。世の中の人間は「大きな努力」こそが重要と思い、「小さな習慣」を軽視する傾向にある。英語をマスターするのに、一番大切なのは、毎日英語に接することであって、何かのセミナーやノウハウによって瞬時に英語脳を作ることではない。人生の目標についても、一度決めたら、達成するまでやり抜くことだけが全能なのである。そんな「当たり前のこと」をもう一度思い出させてくれる自伝であった。
日本語訳で出たのは実は最近のこと。原書はなんと30年前。そのことでも日本が遅れていることを痛感させられる。蛇足であるが、巻末にはソフトバンクの孫正義、ユニクロの柳田正、それぞれの解説と対談があり、それだけでもとっても読み応えがある。古い本なのだろうが、十分に新しい、いやむしろ、今でこそ読む本なのかもしれない。