「劇画・オバQ」藤子F不二雄著

「ドラえもん」の作者である藤子F不二雄の「短編」はどれも衝撃的だ。「ドラえもん」や「パーマン」がいかにも少年少女向け(・・・とは限らない話もあるが)のマンガであるのに対し、「短編」は完全に大人がターゲットになっていると言えよう。

氏の代表的短編である「ミノタウロスの皿」が収録されている短編集の中にこれがあった。大学時代に初めて読んでショックを禁じえなかった作品。「劇画・オバQ」である。「オバQ」の後日談的な話ではあるが、実質上の最終回、それもこれ以上の終わり方がない、ほぼ絶望的な最終回である。

テーマは「大人になること」であろうが、まさに「大人」の視点から読むと、身につまされる話なのである。あらすじもそらで覚えている。

Qちゃんが居候していた正ちゃんのいる街に、何十年振りかに突然姿を現す。正ちゃんはサラリーマンで結婚もしている。再会を懐かしみ、Qちゃんはしばらく正ちゃんの家に泊まることになる。当然、ご飯を何杯を食べる大食らい。家計が大変だと奥さんが訝しく思うのも現実的な話だ。

その後、正ちゃんの幼馴染と次々と会っていき、昔を懐かしんで同窓会をすることに。しかし、一人だけ姿が見えない。天才「ハカセ」である。他のメンバーはそれぞれ堅実な仕事に就いてるが、ハカセだけは夢を追って危な気な事業を始めようとしている。他のメンバーは何度も誘われたが、当然、断ってきた。

間もなく完全にハゲ上がったハカセが登場し盛り上がる。宴もたけなわの時、突然、一枚の旗を取りだす。それは、かつて子ども時代に「王国」を作ろうと一致団結したシンボルとしての旗だった。

「僕たちもあんな時代があった・・・」とそれぞれが昔を回想した時、ハカセがドンと机を叩く。「そこだ!」と。

つまり自分たち大人は子どもの頃持っていた夢を一つ一つ失ってはきていまいか。あの時の心を取り戻そう!と再び「旗」の元に集うのである。

翌朝、二日酔いの正ちゃんに、Qちゃんが詰めよる。「奥さんに会社を辞めると言ったのか?」、と。「ああ、そうか」と浮かない顔で奥さんに近づいた時、そっと耳打ちされる。

「子どもができた」、と。喜び勇んで会社に走り出す正ちゃんだが、その時に、Qちゃんが最後に言ったセリフが胸に突き刺さる。

「信念が人生を創る!」石田久二公式ブログ

空に舞う「旗」がまさに子どもと大人の決別の証ではあるまいか。あまりにも「現実的」な終幕である。これが「現実」なのである。

≫人気ブログランキング(起業・独立部門)≪

ミノタウロスの皿 (小学館文庫―藤子・F・不二雄〈異色短編集〉)/藤子・F・不二雄

¥590

Amazon.co.jp



人生を変える100日ブログ :62日目


カテゴリー: |―未来・歴史 パーマリンク