中村天風の「運命を拓く」は最もよく読んだ一冊である。何度読んでもその都度新しい発見があるし、その時々に最善のメッセージを授けてくれる、私にとってバイブルであることを間違いない。
そして天風の入門書としてもおススメできるが、最後の一冊であるとも言える。はじめに「天風小伝」として天風の生い立ちが紹介される。現代では考えられない凄まじい人生である。血の気の多い少年時代から、満洲へのスパイ活動では死刑宣告を受けながらも、銃殺の瞬間に手榴弾の爆破により助かる。
しかし、日露戦争の勝利の後、悪性の肺結核を患い、治療のために世界を渡り歩くようになる。しかしながら、どこに行ってもこれと言う手立てがないままに、行きついた場所がヒマラヤの麓のヨガの修行場であった。そこで修行をすることにより、結核が完治するばかりでなく、天下の天風としての礎が築かれるのである。
本書はサブタイトルに「天風随想録」とあるように、天風の生の声を文字に綴ったものであり、一つ一つの言葉が胸に心にズシンと響いてくる。天風はインドでの修行経験などによって、その哲学を編み出したのであるが、おそらくは世に在る成功哲学のベースがこの天風哲学にあるように思う。
成功哲学というジャンルは今でも手を替え品を替え、いまだに発行され続けているが、極端な話、表紙とタイトルが違うだけで、中身はすべて同じである。つまりベースはすべて同じであり、そこに著者の経験や表現方法が違うだけで、一冊の本として成り立っている。
そのベースの一つがまさに中村天風なのである。そして天風の言葉にはすべてオリジナリティがあり、天風が直接受け取った宇宙からの真理を感じさせる。たとえば、天風独特には「宇宙霊」という言葉があるが、別の本ではこれを神と言ったり、ハイヤーセルフと言ったり、潜在意識と言ったりするのであるが、天風哲学はまさに「宇宙霊」でしかあり得ない。
そこに天風の単なるエピゴーネンでない、真のオリジナル哲学を感じさせるのである。天風はまさに「宇宙霊」としか言いようのないものとリアルに対置していたのであろう。
私が個人的に特に感動したのが第二章の「人生を支配する法則」にある。インドのグルと対話の中で、天風は「この世に生まれてきた意味」を問われる。そこで何度もグルから殴られながら、ある時、ふと出てきた答えが、
「人間は、宇宙の進化と向上に順応するために生まれてきた」
という悟りである。つまり人間は万物の根源たる宇宙とつながりを持つ資格があり、そのことを理解して生きる者が、生き甲斐のある人生を送るのだと言う。
この箇所を読んで心が震えた。その真理を知るようになり、私自身の人生も真に幸福に包まれたのである。まさに人生の根本原理であろう。
何かに挑戦するとき、つまづいた時、そしてふとこの表紙が目に泊まってしまった場合、私は迷わず本書を開くことにしている。そこで助けられ、勇気を与えられたことが、何度あったろうか。
- 運命を拓く (講談社文庫)/中村 天風
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