いわゆるインテリのオタクの部類か。
いつも文章に勢いがあるが、言ってることは誰かの批判か、単なるわがままにも取れるような自説に対する頑固な主張(禁煙ファシズム批判など)。もちろんまともな文章もあるのだが、個人的にはこの人のちょっと卑屈な真面目さが好きだ。
本書の「バカのための読書術」であるが、一応、読者層として「バカ」の定義はしている。
それは「一応学校を終えてしまって、しかしただのベストセラー小説を読んで生きるような人生に不満で、けれど難解な哲学書を読んでもわからない、というような人」のことを言う。
だからと言って、そのような「バカ」への推薦書として、本書で挙げられている本が正しいかと言えば、そうとも限らない。
ユングはオカルトなので、読むべきではない、と言っているが、実際読んでも構わないのである。
もちろんオカルトに傾倒し過ぎて、自己の判断力を他に委ねるような思考回路を作ってしまうのは問題だと思うが、あくまで「読み物」としてユングくらいは読んでもいと、私は考える。
そのような意味で、本書ではあれ読め、これは読むな、ということが、著者一流の勢いのある文章とともに紹介されているが、当然、ブックガイドとして真に受けるべきではなく、一人の「面白い男」の戯言として、楽しく読むのがいいと思う。
しかし、著者の「バカはまず歴史を読むべき」ということには共感するし、その代表として司馬遼太郎を挙げているのも好感が持てる。
ところが、所々に挿入される著者のブックガイドは、それでも参考にはなる。
永井豪の「デビルマン」を「必読の傑作」と断定されれば、私でも読みたくなってくる。
また、「読んではいけない本」のガイドも面白い。
著者は基本的にオカルト本(ユングや中沢新一)や、わざと難しく書いている本(小林秀雄や吉本隆明)が嫌いなようだし、その辺も妙に共感する。
ただ、マルクスの「ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日」などは、そもそも誰も読まないし、知らないだろう。
ところで、最近は、「ブログ」があるので、改めて著者のブログをチェックしたくなってきた。
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