私のこれまでの人生で最も影響を受けた人物の一人、牧野剛氏の著書。新書だけに、参考書と言うよりも教養書である。
とにかく浪人時代に牧野氏と出会ったことで、それまでほとんど本を読むことのなかった私が、急に読書家になったり、そして読解力があがったりしたものだ。
講義自体は「雑談」しかしていないが、それでも「現代文」への関心を呼び起こし、そして実際に「偏差値」が上がったのだから、予備校講師として素晴らしい仕事をしていると言える。
さらに「人生」まで教えてもらった師である。
牧野氏の「現代文」の極意はこて先のテクニックで点数をかすめ取るようなものとは対極にあり、徹底した「読解」の力を付けることにある。
氏の教えで私が忠実に実行したのが、「現代文」のテキストの文章を「要約」するという作業である。
1600字程度の文章ならば400字で「論理的」にまとめる。これを的確にできるようになれば、嫌でも読解力はつく。
そのようなトレーニングを10代でさせてもらえたことは、私にとって非常に幸運なことである。まさに今の私に生きている。
いわゆる「現代文」の参考書、教え方としてよく見られるのが、文章やセンテンスを「記号的」にとらえて、あたかもパズルを解くように答えを導き出す方法である。
仮にそれで点数が取れたとして、真の読解力が身につくわけではない。
牧野氏の教え方は、それとは対極にある。文章を要約トレーニングで鍛えられるように、文章全体の一貫した読解である。
結局、どこから読んでも、一貫した「イイタイコト」が理解できるような読み方。それを本書では「ウロボロス型」と呼んでいる。
もう一つの牧野氏の教え方の特徴はいわゆる「コード読み」、つまり「文脈」をしっかりと押さえた上で読む方法である。
たとえば「環境」について論じたものであれば、単なる「環境保全」としての文脈だけでなく、現代では「生態系」に依拠した文脈が流行である。
そのような流行的なコードを知っているのと、そうでないのとでは、当然文章の読み方が違ってくる。
また、現代文によく出てくる言葉についても、その意味をしっかり理解した上で読むと、また文章の理解度が全く違ってくる。
たとえば「近代」、「文明」、「普遍」、「認識」、「相対」、「現象」などの言葉をしっかりと理解している人は意外に少ない。
しかしこれらを理解していると、やはり文章の理解の深さが全く違ってくる。しかも、現代文におけるそれらの言葉は意外と少ないのである。
大学受験の現代文は難しい。しかし、読み方さえわかれば、もっと言うと、確実な読解力さえあれば、さほどひるむものではない。
さらに大学受験の現代文レベルの文章が読めれば、社会一般的な文章は(専門的なものは別として)、非常に簡単に読めるものだ。
私は牧野氏から現代文を習ったことで、センター試験レベルの現代文は満点、記述問題でもきちんとした回答が書けるようにまで成績は上がった。
そして今、日本語であれば、どんな文章でも普通に読める能力と自身がついている。まさしく牧野氏さまさまである。
久々に牧野氏の講義を受けているような気持ちになった。
しかし彼の真骨頂は「雑談」にある。
10代の終わり、その「雑談」から私が学んだものは数知れない。機会あれば、ぜひ、彼の講演なり、講義なりを聞いてみたいものだ。
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