一般的な旅行愛好家にとっては、ある意味「最後の秘境」とも言えるメッカの写真レポート。
もちろん世界中からここを目指して何万人もの人が集まってくるのだから「秘境」という言い方は失礼かもしれないが、非ムスリムにとっては、決して足を踏み入れることのできない「聖地の中の聖地」がここメッカだ。
確かにイスラム教徒は他宗教の信仰者がモスクや聖地に足を踏み入れることを好ましく思わない。
半ば観光地化されている土地では、そうは言っておられないのだろうが、敬けんでなくともイスラム教徒の多くは、やはりいい気分はしないのであろう。
とりわけイスラム教最大の聖地メッカは極めて厳格であり、異教徒は完全に立ち入ることはできない。
それはサウジアラビアという国自体がそうなっているが、本書の著者はサウジアラビアにあるイスラム教の聖地の一つであるメディナの撮影を依頼された。
メディナも原則的には異教徒は立ち入れないことになっているが、「写真の腕前」を認められ、当局からの許可を得た上で堂々と撮影することができるようになった。非常に名誉なことではないか。
しかし、ここで写真家の魂が動く。メッカを撮りたいと言うのだ。
しかしイスラム教徒でない著者はそれを許されない。ならばイスラム教徒になればいい、ということでイスラムを受け入れるところから始まった。
本書は日本人が実際にメッカ巡礼を生で体験し、それを素晴らしい写真とともに報告した、極めて貴重な記録である。
さすがに写真も文章も素晴らしく、この「最期の秘境」を追体験するには最高の一冊であろう。
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