ゲテモノ食いのイメージがあるが、実は醸造・発酵学の権威。
今や食のエッセイストとして著作も多い小泉武夫氏の一冊。アジアで何でも食べる、という内容。
舞台はラオス、ベトナム、韓国、モンゴル、ウイグル、ミャンマー、中国。
とにかく食べる食べる。読んでて気持ちがいい。市場に行っては淡水魚や爬虫類を見つけて嬉々として口舐めずりする。
ラオスではメコン周辺の名物でもある「孵化前のゆで卵」を実に美味しそうに食べる。
ただ、日本では完全なゲテモノかもしれないが、食べてみると割といける。
小泉氏は発酵学の専門だけに、とにかく発酵した食べ物が好きなようだ。
発酵の代表としてはまずお酒。読むだけで臭気が漂ってきそうなお酒をまた美味しそうに飲んでいる。
そして韓国では代表的な発酵料理である「ホンオ・フェ(エイの刺身)」に舌鼓を打つ。
とにかくアンモニア臭いこの料理を、小泉氏は毎度のこと刺激で涙をぽろぽろ流しながら、なんと3日も食べに通ったそうな。
そして3日目にようやくその美味しさがわかったのだと、実に旺盛な食への探求心だ。
小泉氏の他の著書でもそうだが、とりわけミャンマーを取り上げることが多いようだ。
日本ではミャンマー料理(ビルマ料理)と言っても、ほとんど馴染み無いだろうが、とにかく美味しそうによく食べる。
まずヤンゴンでは串焼きでウォーミングアップ。珍しいのは「食べるお茶」。
お茶の葉を一年ほど発酵させたものらしいのだが、これを炒めものに使うと、驚くほどの美味になるのだとか。私は食べたことがないが、実に興味がそそられる。
ミャンマーの代表的な調味料としては、エビを発酵させてペースト状にした「ガビ」が有名である。
なるほどミャンマーは発酵食品の宝庫であり、だからこそ小泉氏の大きな関心の的となるのであろう。
本書に限らず小泉氏の文章は面白い。
単にどこそこに行ってあれを食べたこれを食べたというだけでなく、専門の発酵学に基づくうんちくが至る所に散りばめてあり、知的好奇心をまた満たしてくれるのだ。
そして何よりも、日本人が普通食べないようなものまで、実に美味しそうに食べる。
未知の世界を追体験させてくれるところも魅力なのであろう。
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