「宇宙人としての生き方」松井孝典著

 人類を「地球人」として「人間中心」に見るのでなく、宇宙全体の中の一構成要素として、人間を相対化する視点から、人類の行く末について考察する。

 それは人類の歴史を見るにおいても同様、例えば21世紀を予想する際、前100年をその判断基準にするには、余りにお粗末であり、大きく人類史、さらに地球や宇宙生成の歴史から俯瞰する視点おを主張する。

 

 おそらく本書の中心は「人間圏」の登場とその未来予想であろう。

 宇宙の中に銀河系、太陽系があり、そこに地球という一つの天体がある。

 つまり大気や海、大陸、生物、人間がそれぞれ無干渉に存在するのではなく、一つの有機的な「システム」として成り立つことを指摘する。

 そして歴史上、「現代」とはその地球システムの中に「人間圏」という新しい構成要素が出現したものだと定義する。

 それはシステムとして調和性を保っていた生物としての人間とは完全に区別されるべき時代であり、それは地球の歴史上でまったく異質な時代であるとする。

 その契機となったのが「人口増加」と「共同幻想」である。

 まず「人口増加」については、まったく人間独自のものであり、ここに著者の有名な「おばあさん仮説」が登場する。

 多くの生物は生殖能力を失ったメスは生き延びることはできないが、人間だけは「おばあさん」として存続し、さらに多くの知恵や経験を伝承する役割を持つ。

 それにより、より安全な出産や育児が可能となり、それがゆえに人口増加を手助けする。

 増加した人口は一つの地域から分散することが余儀なくされ、いわゆる出アフリカとして、地球全土に散らばり「人間圏」を形成したとする。

 「共同幻想」については、大脳皮質の発達により、言語や抽象的思考力が向上し、農耕や宗教を可能とする、他の生物とは区別される独特な「人間圏」を形成することになったとする・

 さらにシステム論的に分類すると、「人間圏」の形成以前は「フロー依存型」と呼ばれ、人間に必要なエネルギーを一定期間に消費するだけであった。

 ここでは常にエネルギーの総量は一定であり、地球のキャパシティに収まるものであった。

 しかし「人間圏」の形成以降はエネルギーを蓄えることができる「ストック依存型」となり、当然のことながら地球は永久的にはそれを受け入れることができない。

 そして「人間圏」の形成は地球システムに多大なる影響を与えるとする。

 例えば地質移動によりオーストラリアの鉄鋼をすべて日本に移動されるには数千万年かかるが、人間の動力をもってすれば数百年で可能になろう。

 つまり、システムとしての地球の速度と人間の速度とは10万倍もの開きがあると仮定できる。

 言うなれば「人間圏」とは「速度」でもある。10万倍もの速度の違いがある人間は、極論すれば「存在するだけ」で地球に負荷がかかるのであり、その点、環境問題などは今さらと言える。

 
 そこで未来の地球、未来の人類を考えるためには、これまでとは違った思想、パラダイムが必要となる。それが著者の言う「レンタルの思想」である。

 つまり自らの身体を含む、ありとあらゆるものは地球からの「借り物」であると考え、「所有」という考えを変えることである。

 そもそも人間にとって必要なのは、モノの「所有」ではなく、その「機能」である(例えば車を所有せずとも、乗れれば用は済む)。

 そうなると地球が「所有」であふれかえることはない。

 「レンタル型社会」が具体的にどのようなものかは、今の段階では未知数ではあるが、そのような「共同幻想」を持つことが、未来の人間にとって必要なことではないかと、著者は提言する。

 
 「人間圏」の出現によって、人間は中心的・絶対的な存在である語ってきたが、未来を考えるにおいても、人間は自然の一部であり、相対的な存在であると見ることが重要ではないか。

 もしも「宇宙人」という知的生命体がいれば、きっとそう考えるのであろう。

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