【書評】「サイレント・パワー―静かなるカリスマ」スチュワート・ワイルド著

スチュワート・ワイルドと言う人は、一部の人たちを除いて、日本ではあまり知られていない。しかしこの「サイレント・パワー」は是が非でも読むべき一冊である。サイレント・パワーとは何か。著者はそれを「エーテル」という呼び名で表すが、スピリチュアルな世界ではそれを「オーラ」と呼ぶかもしれないし、ギリシャの哲学者がロゴス(論理)、パトス(情熱)に並ぶ「エトス(影響力)」と呼んだものかもしれない。ただし、エーテルとは形のない雰囲気的なものではなく、本書の後半で説明されるが量子的物体を持つもので、それは目に見えるだとも言う。
いずれにせよ、それは決して力みの入った一生懸命なパワーではなく、逆説的にも力を感じさせない、文字通りサイレントなパワーのこと。もしかしたら身近にいるかもしれない。さして前に出てきたりせず、どちらかと言うと口数も少ないのに、そこにいるだけで説明できない存在感を感じさせる人間が。そして、ひとたび口を開こうものなら、一斉に視線を集めてしまう力がある。それがまさに「エーテル」を身にまとった「サイレント・パワー」である。
逆にいつも大声で数多くの言葉を発しながらも、終わってみるとまったく印象に残っていないような人間もいる。ただ、うるさいイメージだけしか与えないような。それは一見、エネルギッシュに見えるが、場に与える影響力は決して大きくない。
ビジネス、リーダーシップ、恋愛など、あらゆる「人間関係」において必要なのは、このサイレント・パワーに他ならない。では、どうすればそのパワーを身にまとうことができるのか。一言で言えば、「必要なこと以外はしゃべるな!」と言うことである。本書にも例示されていたが、私が初めてインドに行ったとき、知人の中年女性が是非その話を聞きたいというので語り始めたところ、いきなり話を遮って「それは戦後の日本と一緒」だと、聞きたくもない思い出話をし始めた。これは間違いなく余計な言葉であろうが、私自身もそのようなことが無きにしも非ずで自戒を促される。
本書でも指摘されているが、とにかく人はしゃべり過ぎる。では、しゃべらないのがいいかというと、確かにいい。しかし、単に引っ込み思案なだけでしゃべらない人は、お酒を飲ませるか、とりわけ興味のある話をふったりすると、封を切ったようにしゃべり出すことがよくある。大人しい人間が、必ずしもサイレント・パワーを身につけているとは限らないのである。蛇足だが、リアルではめちゃくちゃ大人しいのに、ネットの掲示板やコメント欄ではやたらと饒舌になる人がいるが、言うまでもなくそれはサイレン・パワーとは真逆のものである。
要するに、しゃべりたくてたまらない状況にあっても、それを抑えることが重要であり、そこにパワーが宿るのである。思えば確かに、私の知る中でとりわけ影響力のあると思える人間は無駄なことはしゃべらない。食事も一人だし、飲み会の場でも聞かれたことしか話さず、もっぱら質問の側である。余程のことがない限り二次会にも行かない。しかし、そんな人から出る言葉は極めて重量感がある。おそらく意識的、無意識的にパワーの調整をしているのだろうか。
また、本書は一貫してタオイズムの哲学が通底している。タオイズムとは訳者の言葉を借りると「すべてはひとつなのだから、あれこれと恣意的な判断をせずに、それを受け入れて、悠々と流れに任せて生きよう」ということが説かれたもの。結局のところ、必要以上にしゃべるなというのも、自然に任せて悠々と生きよと言うことにつながるし、それは行動においてもそうである。
人はとかく必死になる。夢や願望に向かって頑張って努力する。このような姿勢は一般的によく受け入れられやすい。しかし、必死になる裏には「~ねばならない」などのネガティブな感情が伴っていることがほとんどである。もちろん夢や願望を持つことは明確に否定されることではないが、必死でときには深刻な場合、それらが成就することはまずないだろう。夢や願望が叶うとき、それは例外なく自然の流れに任せたときである。もちろんそれは「なにもしない」ことを意味するものではない。「なにもしない」にも大変な努力が必要なこともある。
自然の流れに任せるとは、つまり「行動に感情をはさまないこと」である。例えば私自身、明確な目標に向かって行動計画を作り、頑張って進めて「頑張って」いるかのように思われるが、やってみると実はそうでもない。例えば「腕立100回」などは大変に見えるが、やると決めた以上、何も考えずにやればいいだけ。そこに余分な感情が入る隙はない。あくまで淡々なのである。
思うに、ここで紹介される「サイレント・パワー」とはあらゆる「パワー」と名の付く力の中で、最上位に位置するものである。それを身につけるための具体的な方法については、例えば瞑想などあるが、詳しくは本書に譲りたい。いずれにせよ、なるべく早い段階でそのパワーの存在に気がつくと、それ以降、人生の質に大きな影響が出ることは間違いない。必読である。
サイレント・パワー―静かなるカリスマ/スチュワート・ワイルド

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