「生命のバカ力」村上和雄著

 遺伝子研究の世界的権威であり、かつてはノーベル賞に最も近い日本人と言われたこともある村上和雄氏の新書。村上氏は経歴等からもわかるとおり、「科学者の中の科学者」である一方、サトルエネルギー学会という多分にスピリチュアルな団体の名誉理事をしていることもあり、本質的には精神世界にかなり傾倒しているのであろう。

 本書の要点は、「人間の遺伝子は97%眠っており(off)、その眠っている遺伝子を起こす(on)ことによって、人は誰でもすごい能力を発揮できる」というもの。「北斗の拳」においても人間の潜在能力をフル活用することで、北斗真拳など流儀をあみ出せるという話があったが、同じようなことを世界的に認められている科学者が言うのだから世の中変わったものだと思う。

 確かに表題にもある「バカ力(ばかちから)」は、火事場やとっさの時には100キロもの金庫を担いで走れたりすることから、普段眠っている力が出た状態を言うのだろうが、それを考え方次第で出せるというのだから、我々凡人にとっては勇気の出る話だ。

 村上氏の言う「遺伝子をon 」にするにはどうすればよいか。特別なエクササイズがあるわけでなく、それは「気持ち」であったり、「考え方」、「感動」、「プラス思考」などによって可能であるとする。

 個人的に面白かった話が「笑いが遺伝子をONにする」という話。糖尿病患者に漫才を聞かせることで、そうではない対照実験において、明らかに血糖値が下がっているという実験結果も報告する。つまり「笑い」は病気まで治してしまうのだ。「笑うかどには福来たる」の科学的実証とも言える。

 また、村上氏の他の著作でもよく見かけ、船井幸雄氏なども好んで使う用語に「サムシンググレート」という言い方がある。それは人によっては「神」や「仏」、時には「奇跡」と言ったりできるのだろうが、世の中や生命をはじめ、遍くもの全てが人知には及ばない「サムシンググレート」によって動かされていると力説する。

 通常、科学者と言われる人種はあらゆる対象を「科学的」に解明しようとするもので、それゆえ科学者と言われるのだろうが、村上氏はためらいも無く「サムシンググレート」のような「非科学的」な要素を前提とする。しかし、村上氏のように「遺伝子」という「まことに不可解なもの」を研究対象としていると、どこかで「人間には説明付かないもの」に突き当たり、その存在を認める辺り、逆に村上氏の科学者としての真摯さが感じられる。

 
 また、本書には村上氏が科学者として大成するきっかけとして、精神世界に関心を持つ人にはおなじみの「偶然の一致(シンクロニシティ)」などのエピソードが紹介されているが、詳しくは本書をお読み頂きたい。

 本書は村上和雄という著名な科学者の筆によるものであるが、科学の本と言うより、冒頭で述べたように多分にスピリチュアルな要素を含んだ本である。しかし、決して「思い込み」のレベルに留まるものでなく、科学者らしく実際のエピソードや実験結果などを紹介しながらスピリチュアルな要素にも踏み込んでいる。

 とにかくこれを読むと勇気がでる。人は誰でもまだまだ成長できる。上手くやっていけるのだ。そして、終章で村上氏はこう締めくくっている。

「この世で生きているだけでも、私たちはサムシンググレートに感謝していいのではないでしょか。そうすればとりたててたいしたことが起こらなくても、毎日、喜んだり、感謝したりすることができるのではないでしょうか。」

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