NLP(Neuro-Linguistic Programming:神経言語プログラム)の入門書。ここ数年、日本でもNLP関連の書物が多く出版されるようになったが、それはごく最近のことであり、以前は難解な翻訳書がある程度だった。しかし、この2~3年は実に多くのわかりやすい解説書が出ており、これもその一冊。そして私が知る限り、わかりやすさと内容のよさのバランスが最も取れた入門書。売れっ子のNLPトレーナー山崎啓支氏によるものであり、現在、日本で最も売れているNLP解説書であるとのこと。
NLPは天才的なセラピスト(M.エリクソン、V.サティア、F.パールズ)の手法を体系化したものであり、そもそもは短期療法の一つとしてベトナム帰還兵などの社会復帰等において大いに貢献してきた。その後、一般のビジネスパーソンの間でもその手法が注目されてきたことから、アメリカをはじめ、日本や世界中に急速に広まっていった。今ではいわゆる自己啓発の基本理論となり、実際、近年の自己啓発書の多くはNLPをがベースとしていることが散見される。
本書はとりわけ「コミュニケーション」に特化した入門書であり、NLPの全体系を網羅したものではない。しかし現実問題として、ビジネスパーソンに最も要求されるスキルがコミュニケーションであり、NLPを切り口としたコミュニケーション一般論として読むと、その実用性は高く評価できる。
本書ではまず筆者独自の切り口として「脳の3つの基本プログラム」を紹介する。それは、
・空白の原則:脳は空白を作るとそれを埋めようとする
・焦点化の原則:意識は同時に2つ以上のことをとらえるのが苦手であり、よって焦点化が起こる
・快・痛みの原則:脳は快を求めて痛みを避ける
とある。そしてこれら(つまり脳の働き)の大前提となっているのが「安心・安全」に対する欲求であると断定する。つまり人間は「安心・安全」をまず確保するために脳が働いており、ことコミュニケーションについても、それは大いに当てはまるというアプローチである。
コミュニケーションについてのこて先のスキルの紹介に留まる類書の多くと比べて、その基本前提を「安心・安全」に置いたことは極めて明快で説得力がある。(空白の原則:人は「わからない状態」から、安心・安全を求めて「わかる状態」へと移行する、焦点化の原則:人は複雑なものから、コントロールしやすいシンプルなものへと移行することで安心・安全を得る、快・痛みの原則:文字通り人は不快な状況を避け、安心・安全な快を求める)。
本書ではNLPの基礎理論ともいえる2つのアプローチにより、実践的なコミュニケーション技法を紹介する。そのアプローチとはNLPで言うところの「メタモデル」、そして「ニューロロジカルレベル」である。
「メタモデル」のアプローチによると、コミュニケーションの多くは「省略」と「歪曲」が生じている。つまり個人の「体験」を伝えるために「言葉」が用いられるのであるが、その際、「体験」をそのものが伝達されるのではなく、言語化することで必然的に「省略」され「歪曲」されて相手に受け取られる。
これは実はメディアとして「言葉」を使う際の利点であり、同時にコミュニケーションギャプが生じる元凶でもある。この「言葉」にまつわる必然的な「省略」と「歪曲」(および「一般化」)の特質を知った上でのコミュニケーションとそうでないものとの間には歴然たる差が生じるであろうことを看破している。その際に重要なのが「質問」のスキルである。
また「ニューロロジカルレベル」のアプローチによると、コミュニケーションを取る相手と自らの間には「意識のレベル」があることを認める。そのレベルとは「環境」「行動」「能力」「信念・価値観」「アイデンティティ」の5段階であり(実際にはそれらを超越した「スピリチュアル」な段階がある)、「環境」から「アイデンティティ」へとレベルアップするにつれて、コミュニケーションのより深い部分に影響を受けるとする。
例えば「叱り方」を例に取ると、部下が仕事の失敗をしたとして、それは往々にして「行動」レベルでの失敗であるにも関わらず、「お前はバカだ」などのように、「アイデンティティ」レベルで批難しようとする。
人間は意識のレベルが高いほど安心・安全に対する欲求も高まるため、そこで部下は上司に対して危険性を感じ取り、そこにも大きなギャップが生じることになる。適切なコミュニケーションには適切な「意識のレベル」があることを知っておくことは重要であろう。
本書はNLPを切り口としたコミュニケーション入門書であり、いわゆる理論の話から、実際的な使い方に至るまで幅広く、そして深く解説されている。そしてNLPに関心ある者のみならず、一般のビジネスパーソンにおいても、是非とも知っておく考え方であり、身に付けておくべきスキルが満載である。
個人的な話であるが、私は本書を著者の講演会の場にて入手したが、著者のそのコミュニケーション力は見事なものであった。単なる耳学問ではなく、NLPを実際に活用し、それを極めた者の言葉には説得力がある。次回は是非、著書の主催する「願望実現セミナー」にも参加してみたいし、また、「願望実現」というテーマで続編を書いて欲しいものだと切に願う。
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