クサい本。そして泣ける、感動する本。プロ手話通訳者としてお茶の間にも広く知られる丸山浩路氏の心温まるエッセイ集。人生に対して本気で向き合ってきた著者の言葉は、表面上は軽く綴られていながら深く重いものがあり、読み進めるうちに涙が止まらなくなる。
特に私が好きなのが「空気が動くと感動が生まれる」というタイトルにおける「バスガイド」の話。特急バスの中で降り場を間違えて乗り過ごしてしまった乗客のおじいちゃん。前のバス停で降りないと人を待たせて困らせることになる。何とかならないか。公共バスなので当然止めることはできない。運転手もバスガイド、そしてそれを見ている乗客も困った様子。何とかならないか。バスガイドが何やら運転手と話をしている。そしてやおら乗客に向かってこうアナウンス。
「当バスはこれより峠に差し掛かりますので、念のためブレーキテストを行います。ブレーキテスト、スタート!」
そして、
「ドアの開閉チェック!」
バスガイドはおじいちゃんに目で合図して、それにハッと気付いたおじいちゃんは荷物を持って乗降口へ。何度も何度も頭を下げながら。何事もなかったようにドアが閉まり、バスが発進。と同時に車内には大きな拍手が巻き起こる。ほっとした表情で嬉しそうに拍手を送っている人、涙ぐんでうなずいている人。そこに居合わせた著者はこう語る。
「この出会い。見事に空気が動いていました。空気が動くと出会いが生まれます。感動が生まれます。そして、そういう出会いに巡り合うと人はやさしくなります。人生が豊かになります。」
このようなあまりにもベタでクサい話が続く。しかしページをめくるたびに感動的なエピソードに出会い、ハンカチが手放せなくなる。「喫煙中の高校生たちに毅然と煙草を消させるウェイトレスの話」、「人生が変わらないと文句を言いにきた不良少年の話」、「耳が聞こえないと言う女性に対し厳しく接する話」などなど何とも言えず動きたくなる話の宝庫。
「二度とない人生、死ぬまで変わり続けていく。それが生きるということではないでしょうか。私もまた、そんな人生を送りたいと心から念じています。」
と最後に締めくくる。今どきここまでストレートにクサい話ができる人もそう多くはない。しかし本音は誰でも感動したい。涙したい。心をさらけ出したい。そんなひとりひとりのピュアな思いを素直に受け止めてくれる。そんな本。読了後はただひたすら流れた涙で心はすがすがしい。今、とにかく心を動かしたい大人は是非一読あれ。
- 本気で生きよう!なにかが変わる/丸山 浩路
- ¥1,575
- Amazon.co.jp