二つの真実

ホーキング博士による「天国も死後の世界もない」という発言は宗教界・科学界で波紋を呼んでいるようですが、実に示唆に富む発言だと感じています。
ただ、ホーキング博士の言うことは2,500年前にお釈迦様が言ったことに驚くほど通じています。お釈迦様の中心的思想は「空」の思想。般若心経にも出てくる「色即是空」の思想です。これを一言で言い現わすと「世の中はすべて幻想だ~」ってこと。イリュージョン。
これは決して観念論に終始する話ではなく、まさに世の中の「真実」です。私たちは前頭葉が発達していますので、言語と記憶を進化させてきました。人はなぜ苦しむのか。それは過去の記憶を未来へと反映させているから。
過去に苦しいと思うことがあったから、きっと未来も苦しいであろう。これが「苦」の正体です。確かに過去の一時点において、痛いとか、悲しいなどの感情をともなったことはあるでしょう。それは認めます。しかしそのことと、今や未来とは何の関係もないこと。
例えば幼少期、犬に追いかけられたとしましょう。雑種の小型犬。その経験によって犬が嫌いになった。だけど、実際に恐怖を感じたのは、幼少期に追いかけられた、あの雑種の小型犬に過ぎないのに、大人になっても「犬」という幻想に怯えているわけです。
そのように考えると「世の中=幻想→空」ってことですべてが片づけられる。ただし、こんな世の中でも二つだけ「真実」はあります。
一つは「人間は必ず死ぬ」という真実です。ここでの死は肉体的な死を意味します。もう一つの真実は、この世の中には「今、ここ」しかないこと。
先ほど言ったように、過去も未来も単なる幻想の産物です。その幻想に現実を投影して世の中を創っている。これが世の中の正体です。しかし、私たちが生きられる唯一リアルな世界は「今、ここ」にしかありません。
この二つ、つまり「人は死ぬ」と「今、ここ」という真実に立脚すると、未来でさえもすべて幻想なのに、死後の世界が現実にあることは考えられません。また、霊界なる世界を主張する人もいますが、それまた「今、ここ」から見れば、やはり単なるおとぎ話。
そもそも「死後の世界」や「霊界」なるものは、苦に生きる人間に対する一種の「方便」として語られる世界に過ぎません。今苦しくても、あの世で救済される。そのような「思想」が人の心を救うことは確かにあったかもしれません。しかし、その「思想」を広げることが、宗教・宗派の拡大に結び付くだけで、人間にとって最もリアルな「今、ここ」を忘れることにつながってしまうこともまた事実です。
ホーキング博士がいみじくも「天国も死後の世界もない」と言ったことは、別の言い方をすれば、「今、ここ」を思い出そうと言うことに他なりません。人間にとって最もリアルな世界を思い出そう。そろそろ既存宗教なるものに頼る必要もなくなっている。人間はそれだけ進化しているんだから。
そんなリアルな現実(真実)に立脚した時、私たちはどのような生き方を目指せばいいのでしょうか。それもまたホーキング博士が私たちに呼びかけています。つまり、、、
自らの行動の価値を最大化するため努力すべき
ということ。「行動の価値」はどこにあるのか。お金、名声、そんなものにあるんじゃないです。自らにおける最高の表現をせよとのこと。それは決して未来で花咲くものではなく、過去に蓄積されるものでもない。
まさに「今、ここ」に最高の自分があるのです。最高に生きようぜ。ホーキング博士が言いたかったのはここではないか。時代は私たちが思っている以上に進んでいるんです。


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