「妻・直子と小学5年生の娘・藻奈美を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだはずの妻だった。その日から杉田家の切なく奇妙な『秘密』の生活が始まった。」(文庫版裏表紙より)
東野作品には珍しいSF的な設定。ただし、スピリチュアル的には「ありえる」話かもしれない。肉体が死んでも「魂」は永遠。たまたま何かの拍子で「魂」が本来入るべきはずの「器」を間違えただけ。そう考えると、SFやミステリーというより、スピリチュアル本としても読める。
ただし、本書はそんな生易しいものではない。小説ゆえに、内容に触れるレビューを書くのはご法度なので、多くは語らない。中盤、ダラダラとした話の展開から、最終章に向けての引き込みは見事。最後の数ページで初めて、この本のタイトルである「秘密」の真の意味が理解できる仕組みになっている。
妻であり娘である直子・藻奈美の一つの転換以降、コミカルに描かれる2人(3人?)の人間模様に安堵感を覚えたかと思うと、最後、数ページでいきなりボルテージが上がり、読後2秒後に滝のように涙が溢れ出る。やられた。
ラストについては、賛否両論かもしれない。愛ととるかエゴととるか。そんなリトマス紙的なラストであるが、個人的には昨今ないほどの衝撃を受けた。しばらくものごとが手につかないとはこういう状態のことを言うのだろう。
読むべきか否かで問われたら、迷わず「読むべき」と答える。ただ、主人公に容易に感情移入してしまいそうな、30~40代の既婚男性が読むにはちょっと残酷かもしれない。しかしそれ故に、夫婦や家族に対する愛のあり様がフレッシュに蘇ることであろう。女性の立場から読むと、また違った気づきがあるかもしれない。
そしてコレを書いている今もまだ不思議な感覚に囚われている。とりあえず「傑作」には違いない。
- 秘密 (文春文庫)/東野 圭吾
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