「社会学」に少しでも造詣のある人ならば、「宗教」と「資本主義」の関係において、マックス・ヴェーバーを思い出さない人はいないだろう。営利の追求を是とする資本主義の精神的な原動力(エートス)として、逆説的にもプロテスタントにおける禁欲主義があったことを論証した有名な学説があるからだ。
言うまでもなく資本主義自体はイギリスから始まったものであり、その根底にプロテスタンティズムの倫理があったとするわけだが、だとしたら日本における資本主義はどのように説明するのか。著者はこのように言う。
「いまから千二百年以上もまえに、宗教改革者ルターと同じように既成宗教の形式化(官僚化)に激しく反対し、より徹底した改革者カルヴァンとほとんど同じ教えを説いて、プロテスタントが理想としたような職業労働に貧しい人々を導いて行く宗教家が、この日本にも存在していたのです」
その人物とは空海や最澄より以前に活躍した「行基」であると言う。行基と言う人物は徹底した「菩薩行(利他行)」を生涯にわたって行い、寺境内での読経と坐禅三昧から、世俗的な労働へと多くの僧を導いたとされ、それがまさに仏教における宗教改革になぞらえると言う。
実際、行基は「地獄」の思想を日本全体に広めることで、そこからの救済を労働倫理へと結びつけたとされる。そのことが石田梅岩や鈴木正三へと受け継がれ、日本人の倫理観に影響を与え、それがさらに資本主義の発展へと結びついたのだと言う。
ただ、私の浅学な所感から言うと、カトリックとプロテスタントは、上座部仏教と大乗仏教とになぞらえ、行基の思想に限定せず、大乗仏教こそが「日本資本主義のエートス」であると言う観点から追求しても面白かったのではと感じた。
また、日本資本主義のエートス研究としては、内藤莞爾氏における「近江商人」との関連性の方が有名であると思うが、その点に言及されていないのが気になったと言えば気になったところである。
ちなみに私は内藤莞爾氏の教え子の講義を受けたことがあり、今、何気なく「内藤莞爾」で検索してみると、先月、お亡くなりになられたばかりのようだ。ご冥福をお祈りしたい。
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内藤莞爾氏死去(九州大名誉教授・社会学)
内藤 莞爾氏(ないとう・かんじ=九州大名誉教授・社会学)17日午後3時20分、腎不全のため福岡市の病院で死去。94歳。静岡県出身。葬儀は19日正午から福岡市中央区古小烏町70の1の積善社福岡斎場で。喪主は妻政代(まさよ)さん。
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