「ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する」島田紳助著

 タイトルの「ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する」は本書のごく一部に記述されるのみ。

 ご飯を大盛りにするオバチャンの「気持ち」が嬉しくて何度も通ってしまうという論理。

 芸能界きってのデータ好きと知られる島田紳助であるが、彼は数字を見ながら、常に人の「気持ち」を感じ取っている。それが彼の経営哲学であり、人生成功の要であるように思う。

 言うまでもなく、紳助氏は芸能界における大成功者であり、実働時間は週3回程度で、それ以外は田舎の家で好き勝手暮らしている。

 好きな時に好きな沖縄に行ったり、オーナーとしてもいくつも店を経営したり、プロデュースしたりしている。何かのアンケートで、憧れの芸能人の一位になっていたのもうなずける。

 しかし、それは単なる時の運ではない。緻密に数字を追いかける鋭い眼球と、人の心理と時代を熟知した恐ろしいまでの千里眼とのバランス、それらが紳助氏に成功をもたらしたのであろう。

 彼の話を聞いていると、必ず成功するであろうことが、よく伝わってくる。何度も言うが、時の運に翻弄されたどこそこの一発屋ではなく、成功するべくして成功した、紳助一流の「成功哲学」が根底にあるからこそ成功しているのである。

 
 本書はまさしく紳助流の「成功哲学」を彼の生の語り口で披露された、まさに生きた「哲学」であろう。

 成功するには、人はよく「常識はずれ」であれと言う。確かにそれはそうだろう。それまでと同じこと、誰かがやったことを単純に繰り返すだけでは、望みどおりの成功にはとうてい結びつかない。

 桁外れの成功をおさめた人間のすべてがやはり「常識はずれ」であろうと思う。それは当の紳助氏がそうであった。漫才ブーム直前の演芸とは、スーツにネクタイ、子どもからお年寄りまで、誰からも好かれる芸を持つことが常識であった。

 しかし紳助が世に出たのは、リーゼントにつなぎ、そして同年代の野郎に的を絞った、まさにつっぱり漫才であった。当時としては常識はずれ。

 しかしその「常識はずれ」も時の運ではない。紳助氏はそこに「合理的」であることを求める。逆に「常識はずれ」で成功できるのは、時の運に任せない「合理性」がそこにあるからだ。だから成功する自信があるのだろう。

 ここに紳助氏らしい経営哲学がうかがえる。彼は人の心を揺さぶる、驚かす、そのような遊びの精神を持ちながらも、その一方で徹底的に合理的なのである。

 
 本書には紳助氏のベースとなる経営スタンスに始まり、具体的な事例を踏まえながらの、経営各論にまで話が及ぶ。この通りにやると成功する、と言うものではなく、彼の「精神」をモデリングし、それを自らのビジネスや人生に活かすような姿勢が必要であろう。

 いみじくも紳助氏自身がこう言っている。

「僕が彼(尊敬する面白い社長)からいちばん学んだのは、そういうスタイルよりも、その精神だ(28頁)」

 まさに生きるヒントが「大盛り」の一冊である。

ご飯を大盛りにするオバチャンの店は必ず繁盛する―絶対に失敗しないビジネス経営哲学 (幻冬舎新書)/島田 紳助
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