「モーツァルトが求め続けた『脳内物質』」須藤伝悦緒

 異論はあるにせよ、モーツァルトの音楽が気分を落ち着かせたり心地よい気分にさせてくれるばかりでなく、様々な疾病の緩和や知能の向上など数多くの効果があることはよく聞く話である。

 そのような様々な効果をもたらす要因を一つあげるとなると、それは脳内ホルモンの一種であるドーパミンの量に依存すると言われている。

 ドーパミンとは快楽ホルモンと言われることがあり、その分泌によって、人はたちまち気分がよくなったり、体調がすぐれたり、やる気が出てきたりする。

 逆に心身共にコンディションの良くない状況は、ドーパミンの不足に起因すると言われ、いわゆる鬱の治療においては、ドーパミンの量を調節する薬を処方することが一般的である。

 そしてドーパミンの量を調節できないほどに分泌させる薬のことを麻薬と言われる。

 
 しばしば人を熱狂させるもののことを「麻薬のように」と形容されることがあるが、モーツァルトの音楽もまた麻薬のように人を虜にする。

 つまりは、モーツァルトの音楽にはドーパミンの分泌を促進する効果があると言う。

 本書は、モーツァルトの生涯、とりわけ医学的な見地から見たモーツァルトの生い立ちにスポットを当てながら、モーツァルトの音楽の秘密を探っていくという内容となる。

 著者の見解によると、モーツァルトは幼い頃からドーパミンの分泌が抑制される病気にかかっており、それがしばしばモーツァルトの異常行動を引き起こしたとされるが、自らドーパミンがされやすい音楽を生み出すことによって、自らの病状を緩和していたと言う。

 つまり、モーツァルトの音楽とは自らの病気を癒すために生み出した音楽なのである。

 音楽的側面に限定したモーツァルト研究や、いわゆるモーツァルト効果(癒しや知力向上など)と言われる、モーツアルト音楽の二次的効果に着目した研究はこれまで数多くなされているが、モーツァルトの音楽と、その生い立ちとの関連を科学的に説明している研究はこれまで類を見なかった。

 つまり本書は音楽と医学の橋渡し的な役割があり、本書で主張している「自らの病気を癒すための音楽」というテーゼは、確かに仮説の域を超えないにせよ、少なくともそのように考えることは面白いし、モーツァルトの音楽の魅力がさらに深まったように思われる。

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