「水はなんにも知らないよ」左巻健男著

水に「ありがとう」と声をかけると結晶が美しくなる。

逆に、水に「ばかやろう」と声をかけると結晶が壊れる。

このような話を聞いたことがある人は意外と少なくないだろう。

もはや議論し尽くされいて、さすがにこれを「科学」だと信じる人はいないと思うが、かつての私のように、「その話は知ってるけど真実じゃなかったの?」と思った人は、ぜひ、本書に目を通して頂きたい。

この話の元は江本勝氏の「水からの伝言」や「水はなんでも知っている」が発端となっているが、主張そのものは一種のファンタジーやポエムとして読む限り、決して悪い印象を受けることはない。

しかし、これが一部の学校教育の現場などで「道徳」の一環として取り上げられるなど、もはや看過できない状況に発展した経緯があり、科学リテラシー、いやそればかりか道徳教育そのものが歪められる恐れがあったのである。

さすがに今現在は、本書のような働きもあって、学校現場で「水からの伝言」が用いられることはないようだ。

ただ、その「類」とされる「ニセ科学」の蔓延による被害は、日本のみならず、世界でも見られている。

本書で取り上げられているものではないが、「ホメオパシー」などはその代表である。

ホメオパシーとは、その病気に元となる成分(つまり毒)を自然界の鉱物、植物、昆虫などから抽出し、それを100倍に希釈した作業を30回程度繰り返して、もはや元成分が残らないレベルにまで「毒」を希釈した水を、砂糖球錠剤(レメディ)にしみ込ませ、それを服用する。

それによって「毒は毒を制す」の考えから、病気を元から断ち、健康体を手に入れると言う考えである。

100の30乗にまで薄めた毒は、もはや「ない」のと同じであり、厳密な意味での「毒は毒を制す」とは異なる。

ホメオパシーが主張するのは、「水は毒の情報を記憶する」ので、その情報が病気を治すのだと言う。

もちろんそのような話を信じて、ホメオパシーに手を出すのは個人の自由である。

実際、ブラシーボ効果以上の効果はないと科学では結論付けられてるが、逆に言えばブラシーボ効果程度の効果はあるので、まったく治らないわけではない。

しかし、問題なのは、ホメオパシーを信仰するあまり、本来の医学(西洋医学)を否定し、受けられるべき治療を放棄して、場合によっては患者を死に至らしめるケースが多発していることだ。

これなども「水は言葉を理解する」という一種の「信仰」と同じく、「水は情報を記憶する」との信仰に基づく、あってはならない事故、弊害である。

私自身も「科学だけが万能である」と言うつもりはないし、本書の著者、その他の科学者も同様にそう思っていることだろう。

しかし、人類の偉大な叡智たる「科学」は、今のところ「信用」に値する大きな判断基準であり、明らかに間違っているものは間違っている。

確かに今後、科学の進歩によって「水が言葉を理解する」「水は情報を記憶する」などの仮説が科学的に証明されることを完全に否定することはできない(が、その可能性は極めて小さい)。

しかし、「水からの伝言」で言われているような「水にありがとうと声をかけると結晶が美しくなる」という話やその写真は、断じて科学ではないし、江本氏自身が雑誌(アエラ)で答えているように、ファンタジー、ポエムの域を出るものではない。

もちろん誰もが「科学者」になる必要はないが、最低限、当たり前の価値判断ができるようにはなっておくべきだし、それをしっかりと次の世代へと引き継いでいく必要がある。

それが科学リテラシーであり、愛する家族や友人から身を守るために必要な知識・姿勢なのである。

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・ニセ科学は、私たちからそれらの価値を奪い取ろうとたくらんでいることを忘れてはならない

・信仰と科学は別ものであり、どちらも大切だが、それらを混合しては決してならない

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