Central Europe → Italy · 2026

東ヨーロッパ、4部作の旅チャリと、青と、神社と

2026.7.25 — 8.11 / SOLO / Vienna → Cyprus → Bulgaria → Italy

期間18日間
同行自転車+α
舞台中欧〜地中海〜伊
通算75カ国目

二〇二六年夏。自転車を担いで、ウィーンへ。二十九年前、アムステルダムからウィーンまで走った旅の、その続き。ドナウ川を下り、スロバキアからハンガリーへ。しかし記録的な猛暑とパンクが、チャリ旅を止めた。そこからは、行き当たりばったり。地中海のキプロス、ブルガリアのジャズフェス、そしてイタリア。バチカンで泣き、サンマリノ神社に呼ばれた。意図せず四部作になった、十八日間のひとり旅。

ROUTE / 旅の行程(4部作)

ウィーン ブラチスラバ コマールノ ブダペスト ソルト バヤ手前でチャリ終了 キプロス ソフィア バンスコ ローマ サンマリノ ミラノ 自転車 飛行機 バス・列車

PART I

チャリ旅編

Vienna → Bratislava → Budapest → Solt

72SLOVAKIA
7.25 – 7.26

まさか、自転車を持ち込むとは / ウィーン → ブラチスラバ

2026.07.25(土)— 07.26(日)

「なにをやっとるんや。今、なぜかヨーロッパを自転車で走っている。」

自転車をダンボールに詰めて、ウィーンへ。二十九年前、二十四歳のとき、アムステルダムからウィーンまで一ヶ月かけて自転車で走った。あのとき中古のチャリが壊れなければ、イスタンブールまで行くつもりだった。今回は、その「続き」だ。ウィーンの空港で自転車を組み立て、ブラチスラバ方面へ走り出す。

ウィーンの空港で自転車を組み立てる
START — ウィーンの空港で、自転車を組み立てる

自販機でスプライトとお菓子を買うと、千五百円。物価の洗礼だ。それでも走る。やがて国境を越え、七十二カ国目のスロバキアへ。そして——ドナウ川。二十九年前はドイツのウルムから、この川に沿って走った。今回はまさに、その先を辿っている。夜は、農園の中の不思議な宿。ビニールハウスのラウンジは暑かった。

ドナウ川
DANUBE — 29年ぶりに再会した、ドナウ川

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7.27 – 7.28

ドナウを下って、ブダペストへ / コマールノ → ブダペスト

2026.07.27(月)— 07.28(火)

「グヤーシュとビール。美味すぎて、泣いた。」

ドナウ沿いに、南東へ。コマールノでは、スロバキアの国民食——羊のチーズとベーコンのダンプリングを頬張る。濃厚で、塩気が効いて、ビールが進む。水道水も飲めるので、ペットボトルに詰めて走る。コーラは、薬だ。塩分と糖分を補給する、チャリ旅の必需品。

スロバキアのダンプリング
SLOVAK — 羊のチーズとベーコンのダンプリング

ドナウを渡ると、いつのまにか国境を越えてハンガリーへ。ブダペスト着。二十九年前、アムステルダムからここまで来て、日本人宿「テレサの宿」で多くの人と出会った街だ。オープンテラスで、ハンガリー名物のグヤーシュとビールを頼む。美味すぎて、泣いた。三十年前も食べたはずなのに、こんなに美味くは感じなかった。

ハンガリーのグヤーシュ
GOULASH — 美味すぎて泣いた、ブダペストのグヤーシュ

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7.29

ブダペスト、神の領域 / 滞在

2026.07.29(水)

「『四季』を生で全曲。ヴィヴァルディは、神だ。」

走らない一日。二十九年前を思い出しながら、灼熱のブダペストを歩く。夜は、徒歩圏内の教会でクラシックのコンサートへ。三メートルの距離で、著名なヴァイオリニストにかぶりつく。ヴィヴァルディの「四季」を、生で全曲。感動した。今聴くと、不協和音も、コード進行も、まるでジャズのようにモダンだ。

教会のヴァイオリンコンサート
VIVALDI — 教会で、「四季」全曲を生で

AIは、すべての平均点を出す。「エモい曲を作れ」と言えば、それらしいものが出てくる。だけど、二百年、三百年と残る曲を、AIは生み出せるだろうか。答えは、否。ヴィヴァルディが神だからだ。人間とAIの違いは、神であるか否か。人間は、神であることを思い出す。そこに、レゾンデートルがある。

夕刻のドナウ川
NIGHT — 夕刻のドナウと、ブダペストの灯

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7.30 – 7.31

千代の富士 / ブダペスト → ソルト

2026.07.30(木)— 07.31(金)

「俺は今、千代の富士だ——体力の、限界。」

ブダペストを出た日、ガチでヤバかった。Googleマップは何度も未舗装の悪路を示し、前輪がパンク。今年のヨーロッパは記録的な猛暑で、多くの人が熱波で倒れている。暑いのに、寒気がして鳥肌が立つ。熱中症の前兆だ。脳が麻痺していく。頭に浮かんだのは、なぜか「千代の富士」。体力の限界を象徴する、あの言葉だった。

未舗装の悪路
ROUGH — マップが示す、走れない未舗装路

水も尽き、覚悟した。そのとき、大きな建物が見えた。会社の守衛さんが、水をたくさん持ってきてくれた。噴水で全身を冷やすのも、大目に見てくれた。正直、生き返った。あの人に、救われた。ソルトの宿にたどり着き、ベッドに倒れ込む。飲みたくなったビールは、でかくて、安かった。

宿のビール
BEER — 生還の一杯。でかくて、安い

翌日、スーパーとバス停の前で、二度目のパンク。直しても焼け石に水だと思い、ここでチャリ旅を終えることにした。でも、これは神のご加護だと思った。あのまま続けていたら、どこかで倒れて、今頃は入院だったかもしれない。俺は、ツイてる。チャリ旅は、リベンジする。ヨーロッパ全土を走るのが、また目標になった。

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PART II

キプロス編

Budapest → Cyprus(地中海の青)

73CYPRUS
8.1 – 8.2

謎の国、キプロスへ / パフォス

2026.08.01(土)— 08.02(日)

「テーマは、青。東は青、木、俺の色だ。」

チャリ旅が中断して、日程がぽっかり空いた。ブダペスト空港に戻り、次の行き先を考える。ノルウェー、スペイン、ジョージア……候補はいくつも浮かんだが、ここはキプロスが最有力。片道一万円。バルカンから、いったん離れたかった。空港のラウンジで、久々の「米」——インド風チキンカレーが、五臓六腑に沁みる。おかわりもした。七十三カ国目、キプロス共和国。

パフォスの街を歩くと、地中海が、青い。ふと思う。陰陽五行では、東は「青」、そして「木」。ドナウ川を走り、宮本輝の『青が散る』を思い、松田聖子の「蒼いフォトグラフ」が浮かぶ。今回のテーマカラーは、まさに青。青は東で、木で、俺の色だ。西欧より、東欧の方が好き。

キプロスの青い地中海
BLUE — テーマは青。パフォスの、地中海

夜は、街歩きしてインドカレー。海外のカレーは、いつも量が多い。キングフィッシャービールが、懐かしい味がした。キプロスは、複雑な国。南のギリシャ系はEUで、ユーロで、立派なヨーロッパ。しかし北は、トルコ系が「北キプロス」として独立している。承認しているのは、トルコだけだ。

キプロスのインドカレー
CURRY — 懐かしいキングフィッシャーと、インドカレー

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8.3 – 8.5

北キプロス、分断の首都 / ニコシア

2026.08.03(月)— 08.05(水)

「歩いて国境を越えると、そこは完全に『トルコ』だった。」

パフォスからバスで二時間半、首都ニコシアへ。雰囲気が、パフォスとまるで違う。ここには、世界で唯一「分断された首都」がある。歩いて国境へ。キプロス側にも出国手続きがあり、緩衝地帯を抜けて——北キプロスに入国する。かつてサンディエゴからティファナへ歩いて越えた、あの感覚に似ている。

北キプロス入国
BORDER — 歩いて越えた、分断の国境

驚いた。雰囲気が、まったく違う。完全に「トルコ」じゃないか。甘い菓子の店、どこか違う顔立ち、違う匂い。テンションが上がる。宿へ歩いていると、日本語が聞こえた。声をかけると、日本人夫婦のグループ。こんなところで出会うとは、お互いにびっくり。三十年前は、どこへ行っても日本人だらけだったのに。

夜は、キプロス風パスタ。炭火焼きのチキンケバブが乗っていて、これが大当たり。エフェスビールにもよく合う。食後のチャイは、サービス。トルコ風だ。北キプロスに来て、よかった。東ティモール、サントメ、アルバニア——僕はこういう「謎の国」に、なぜか惹かれてしまう。

北キプロスのチャイ
CHAI — 食後にサービスされた、トルコ風のチャイ

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PART III

ブルガリア編

Sofia → Bansko Jazz Festival

74BULGARIA
8.6 – 8.7

ソフィアから、バンスコへ / ブルガリア

2026.08.06(木)— 08.07(金)

「自転車の後のメシは、格別。やっぱ俺は、自転車の人でいい。」

キプロスからソフィアへ。ブルガリアと言えば、日本では圧倒的にヨーグルト。スーパーで買って食べたら、普通に美味しかった。ソフィアから午前のバスで百五十キロ、山あいの町バンスコへ向かう。宿は、東欧によくある民泊風。段差だらけで、何度もすねをぶつけた。バリアフリーは、大切だ。

ブルガリアヨーグルト
BANSKO — 山あいの町、バンスコに到着

夕方から街歩き。せっかくなので、ブルガリア料理を。スープ、パン、そしてキョフテ。ハンガリーのグヤーシュ以来、すっかりスープにハマっている。白ワインも、最高だった。しみじみ思う。自転車の後のメシは、やっぱり格別だ。それだけでも、自転車の価値がある。うん、やっぱ俺は、自転車の人でいい。

ブルガリア料理 キョフテ
KYOFTE — ブルガリアの国民食、キョフテとスープ

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8.7

ここは、夢の世界か / バンスコ・ジャズフェス

2026.08.07(金)

「ここはどこだ、俺は何をしてるんだ。まるで、夢の世界。」

夜八時、メインステージに演奏が始まる。漫画『ブルージャイアント』のヨーロッパ編に、主人公たちがオランダの小さなジャズフェスに呼ばれる話がある。ヨーロッパ中に、大小さまざまなジャズフェスがある。バンスコも、その一つ。そしてこの夜のメインステージが、日本から来た石川さんたちのバンドだった。

バンスコのメインステージ
STAGE — ブルージャイアントの世界、バンスコのメインステージ

ピアノトリオに、ギターの石川さん、ベースの関谷さん、トランペットのみさとさん、そしてボーカル。序盤は「Cry Me a River」「Beautiful Love」「Moanin'」。やがて石川さんのアルバムから「But Not for Me」——実はこのスタンダードは、僕が選曲した一曲だ。それがブルガリアで聴けるとは。さらに「浜辺の唄」「荒城の月」まで飛び出す。

バンスコのジャズ演奏
MISATO — みさとさんのトランペットが、すべてを圧倒した

そして、独学だというみさとさんのトランペットが、すべてを圧倒した。巨匠のごとし。ソロのあとの拍手が、いちばん大きかった。まさに「みさと劇場」。今度出るみさとさんのアルバムは、マストバイだ。ここはどこだ、俺は何をしてるんだ——まるで、夢の世界。この世界が「現実」だという保証は、どこにもない。どうせ夢なら、思ったことは、すべてやる。

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PART IV

イタリア編

Rome → Vatican → San Marino → Milan

8.8 – 8.9

バチカン、世界の中心 / ローマ

2026.08.08(土)— 08.09(日)

「サンピエトロ寺院だけで、ずっと居れる。泣いた。」

帰りの空港がミラノなので、せっかくならと、ローマ・バチカン・サンマリノを足した。それが、最後の最後に大感動をもたらす。バチカン市国。サンピエトロ寺院だけで、いつまでも居られる。泣いた。イスラム教徒にとってのメッカ、カトリック教徒にとってのバチカン。宗教に関係なく、ここは世界の中心の一つだと、その理由が体でわかる。

バチカン サンピエトロ寺院
VATICAN — 世界の中心、サンピエトロ寺院

そのあとは、ありきたりのローマ観光。スペイン広場から、トレビの泉へ。コインを投げる人はもういないようで、暑い中、水の音が心地よかった。街の食堂で、きのことひき肉のパスタに、ミートボール、イタリアビール。こんなのでいい。イタリアは、ガチでメシが美味い。

トレビの泉
TREVI — 水の音が心地よい、トレビの泉

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75SAN MARINO
8.9

サンマリノ神社に、呼ばれた / サンマリノ

2026.08.09(日)

「バスに乗れなかったからこそ、辿り着けた。呼ばれた。」

七十五カ国目、サンマリノ。リミニからのシャトルバスは「今日はもう終わり」と言われ、乗れなかった。ホテルをキャンセルするくらいならと、タクシーを拾う。七十ユーロ。走り出してすぐ、ふと思い出した——サンマリノ神社が、あったはずだ。調べると、タクシーはもう近くまで来ている。運転手さんは、快く寄ってくれた。

サンマリノ神社
JINJA — 神社庁公認、ヨーロッパ唯一の神社

神社本庁が関与した、ヨーロッパで唯一の神社。御祭神は、天照大御神。バスに乗れていたら、来られなかった。ホテルから七キロ、徒歩は無理、バスもない。タクシーで、しかも神社の直前で思い出す。これを「呼ばれた」と言わずして、なんと言おう。胸が震えた。これから、すごくいいことがありそうだ。

街のど真ん中の、いいホテル。隣の店で、スパゲッティ・ポモドーロと、白ワイン。サンマリノは白ワインの産地だと、あとから知った。祝杯でしかない。感謝の気持ちで、また泣きそうになる。

サンマリノの丘からの眺め
SAN MARINO — サンマリノの丘から、旧市街を望む

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8.10 – 8.11 / 帰路 / HOMEWARD

ミラノから東京へ、4部作で着地 / Milano → Tokyo

2026.08.10(月)— 08.11(火)

「意図せず、4部作になった。」

サンマリノからミラノへ。この旅の間、たびたび一人の男のことを考えていた。幼稚園からの同級生。長年フィレンツェに住み、世界的な靴職人になった男だ。ちょうど一時帰国中で、入れ違い。でもイタリアは、また来る。彼とここで飲むのを、人生の目標にしよう。

帰りの機内食のステーキ
STEAK — 久々にしっかり食べた、洋食ステーキ

ミラノの空港はイミグレが長蛇の列で、ラウンジもお土産も諦めたが、ともあれ間に合った。オーライ。機内でこの旅を総括する。意図せず、四部作になった。第一部・チャリでギリギリ。第二部・謎の国、北キプロス。第三部・みさと劇場。第四部・サンマリノ神社。西の天照大御神と、縁を結べた。ヨーロッパとまた、深く縁ができた。きっと、また何度も来るだろう。

ブログ原文 ▸ 東欧16東欧17

二十九年前の続きとして、自転車で走り出した。猛暑とパンクに阻まれ、計画は崩れた。けれど、崩れたからこそ、地中海の青にも、ブルガリアのジャズにも、バチカンの荘厳にも、サンマリノ神社にも、辿り着けた。バスに乗れなかったからこそ、呼ばれた。うまくいかないことは、たいてい、もっといい場所への入口だった。意図せず、四部作。これもまた、ツイている。

— Q / 崩れた計画の先に、呼ばれた場所があった。