Central America · Overland

中米縦断の旅バスで七カ国、71カ国目へ

2026.02.24 — 03.09 / 13 DAYS / 71st country

期間13日間
手段陸路+空路
訪問7カ国
通算71カ国目

久々の、完全な一人旅。グアテマラから陸路で中米七カ国を南下し、パナマまで抜けた十三日間。途中の国で特別なことは何もしない。ただバスに揺られ、ただ生きてるだけ。つまり無駄。でも、その無駄こそが「考える」という最大のギフトをくれた。人生の転換点になる旅だった。

▲ N 成田 → メキシコシティ[乗継] ここから南下 S ▼

DAY 1–5

グアテマラ / Guatemala

2026.02.24(火)— 02.28(土)

「言葉を手放した分だけ、人は生まれ直せる。」

成田を発ち、メキシコシティで乗り継いでグアテマラへ。プレミアムエコノミーの機内ではカツカレーとオムライスを少しだけ口にして、あとはずっと寝ていた。メキシコシティの空港は大きいのにどこか田舎っぽくて、降りた瞬間から英語がまったく通じない。一気にスペイン語の世界だ。グアテマラシティに着くと、標高が高いせいか外は肌寒い。オンラインの入国申請に手こずりながら、送迎タクシーで四十分。完全な一人旅は二〇一六年のニュージーランドのチャリ旅以来で、正直また不安が大きい自分がいたが、原点回帰、初心に戻って新たなスタートだ。

アンティグアの街並み
ANTIGUA, GUATEMALA — 美しい古都

拠点に選んだのは美しい古都アンティグア。スペイン語の短期レッスンを五時間×三日。英語のほとんど通じない年配の先生に、テキストもなくフレーズだけを教わる。中学生に戻った気分で、勉強嫌いの子の気持ちが痛いほどわかった。だけど復習はAIが相棒だ。「Me gusta la fruta」がなぜ主語が "me" なのか、「Yo」をなぜ省くのか——レッスンで生まれた疑問を、その場でAIにぶつけて一気に腑に落とす。会話から入って疑問を持ち、自分で確かめて納得する。この順番が、効く。

そしてこの街で、五十三歳の誕生日を迎えた。この数年はモロッコ、ガーナ、エジプトと、誕生日はたいてい海外だ。宿が居心地良すぎて延泊し、バスの予約では誕生日を聞かれて「オイ(hoy)」と返せたのが妙に気持ちよかった。後から係の人が日本語で「お誕生日おめでとうございます」と言って、小さなお土産をくれた。最高のプレゼントだ。

アンティグアのスペイン語学校
IXCHEL SPANISH SCHOOL — 三日間通った学校

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DAY 5–6

エルサルバドル / El Salvador

2026.02.28(土)— 03.01(日)

「予定が崩れた、その先にベストがある。」

アンティグアからUberでグアテマラシティのバスターミナルへ。混んでいて一時間半かかった。グアテマラからパナマまでのバスチケットは、米ドル現金で百九十ドル。中米は意外と飛行機が安くなくて、今回の目的はとにかく訪問国を増やすこと、ただ縦断するだけだ。ところがこのバスが想定外に豪華で、飛行機のビジネスクラス並み。ハンバーガーにコーラ、お菓子まで配られる。日本でもこんなバスに乗ったことがない。

ティカバスのターミナル
TICABUS TERMINAL — グアテマラから、国境越えのバスへ

問題はここからだ。"サンベニート" という地名と "ホテルカルロス" というターミナルをめぐって大混乱。降りると言っているのに、乗客みんなで「ホテルカルロス!」と合唱され、なかなか降ろしてもらえない。あれこれ取り違えて、危うく置いてけぼりで詰むところだったが、どうにか降りて、Uberでその夜の宿へ向かった。

泊まったのは、クラブの音が一晩中うるさいホテル。それでも満月の下、AirPodsでモーツァルトの初期のピアノ協奏曲を聴いていたら、心も身体もすっと眠れた。サンベニートとホテルカルロスは、一生忘れない。

満月の夜
PLENILUNIO — 満月の夜、モーツァルトを聴きながら

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68COUNTRY
DAY 6

ホンジュラス / Honduras

2026.03.01(日)

「世の中は、気持ちだけで回っていない。」

翌朝は別のバスに乗り換え、エルサルバドルからホンジュラス、ニカラグアへと一気に南下する。道中、隣の兄ちゃんがクッキーを分けてくれた。その彼がふいに降りた瞬間、ハッと気づいて慌てて飛び降りる——エルサルバドルの出国は、エスコートもなく勝手に降りるスタイルで、あのまま気づかなかったら、俺だけ置き去りになるところだった。

ホテル・サン・カルロスとティカバス
HOTEL SAN CARLOS — エルサルバドルを旅立つ朝

そうしてたどり着いたホンジュラスの入国では、税を米ドルで払わせてくれず、両替屋の兄ちゃんに頼んだら、二十ドル渡してボロボロの札で十六ドルのお釣り。受け取りを渋られるボロ札を、ここぞとばかりに掴まされた格好だ。

そして俺は、確信犯的に「高齢者・障がい者」の空いた窓口に並んで、スルッと入国した。ずうずうしいと思われるかもしれない。でも言葉がわからない俺は、手続きが圧倒的に遅くて、結局みんなに迷惑をかける。いわば "言語障がい" だ。これは合理的な選択なのだ。中米は高齢者や障がい者への配慮が、日本以上に手厚い。それも案外、敬いの心というより「遅そうだから別枠で」という合理性から来ているのかもしれない。世の中は、気持ちだけで回っているわけじゃない。六十八カ国目。

昼は、ドライブインで揚げチキンとポテト。ケチャップ——いや、ここでは "サルサ・コン・トマテ" を添えて、コーラで流し込む。決して上等なものじゃないが、ひもじい旅の途中、この一皿がやけに沁みた。

ホンジュラスのドライブインの揚げチキンとポテト
HONDURAS — ドライブインの揚げチキン

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DAY 6–7

ニカラグア / Nicaragua

2026.03.01(日)— 03.02(月)

「ひもじさの分だけ、世界はうまい。」

ホンジュラスのドライブインではチキン、夜はポテチだけ。ひもじい旅だ。だから翌朝の朝食を、何より心待ちにしていた。ニカラグアの朝はさわやかで、出てきた典型的な朝食は、量こそ少ないけれど文句なく美味い。ジュースが来なかったので「フゴ(jugo)」と言いに行ったら、自然な甘さのメロンジュースをくれた。

ニカラグアの朝食とコーヒー
NICARAGUA — 旅No.1の朝食

そして、言わせてほしい。ここで飲んだコーヒーが、死ぬほど美味かった。コーヒーは果物だ。普段日本で飲んでいるものとは段違いで、インドネシアのコピ・ルアクよりも美味い。中米に来て一番の感動が、まさかコーヒーだとは思わなかった。

さわやかなニカラグアの朝
BUENOS DÍAS — さわやかなニカラグアの朝

正午のバスは前日と打って変わってすいていて、客層も上品。たまたま選んだ席の前に謎の突起があって、足を乗せるとまるでベッド。隣もいない、完全な特等席だ。ひもじさの分だけ、コーラが薬のように染み渡る。一日単位で国を移動するから両替はしたくない。米ドルとカードが命綱だ。それでもこの旅、不思議と良い思い出しかない。

ブログ原文 ▸ 7日目

70COUNTRY
DAY 7–9

コスタリカ / Costa Rica

2026.03.02(月)— 03.05(木)

「ナマケモノに、急がない強さを教わる。」

ニカラグアを出国し、拍子抜けするほどスムーズにコスタリカへ。七十カ国目。ここは憲法で軍隊を放棄したエコ大国で、日本の九条以上に厳格に、軍事費をまるごと環境と福祉に充てている。リベラルの極地だ。とはいえ近年は保守に向かう傾向もあるそうで、「コスタリカでさえ」というその揺れが、この時代を象徴しているようにも思う。

コスタリカの国民的動物ナマケモノ
COSTA RICA — 国民的動物、ナマケモノ

移動のない日は、大学生がガイドのネイチャーツアーへ。お目当てはナマケモノだ。大学の校内にはバナナやパパイヤ、コーヒーまで生えていて、熟したコーヒーの実をそのまま口にすると、甘い。本当にフルーツだった。「コーヒーはフルーツ」——どこかで聞いた言葉が、ここでようやく腑に落ちる。中米のコーヒーはどこもフルーティーで、これまで飲んだ中で一番だと実感している。

熟したコーヒーの実
EL CAFÉ ES FRUTA — 熟したコーヒーの実は、甘い

翌日は、市場と街の食べ歩きツアー。味のある市場がいくつもあって、食べるところも多く、しかも安い。フルーツの試食から始まって、変わった果物も、マンゴーも、チョコレートの試食まで。ここまでの途上国の空気から、治安も物価も、コスタリカでぐっとグレードが上がるのを肌で感じる。

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71COUNTRY
DAY 10–11

パナマ / Panamá

2026.03.05(木)— 03.07(土)

「人生は無駄の連続。なのに、何ひとつ無駄はない。」

コスタリカを深夜零時に出るバスで、最後の国境へ。グアテマラからパナマまで、まあまあ快適なバスで三万円。飛行機なら二万円で、時間も大幅に短い。途中の国で特別なことは何もしていない。ただ移動して、ただ生きてるだけ。つまり無駄だ。でも、それがいい。人生は無駄の連続でありながら、何ひとつ無駄はない。この長いバス旅が、俺に「考える」という最大のギフトをくれた。

パナマ市街
PANAMÁ CITY — 運河と高層ビルの街

コスタリカ出国もパナマ入国もスムーズだったが、そのあとの荷物検査に時間を取られた。麻薬犬二匹で厳重に、荷物も係員の手で一つひとつ開けられる。それを抜けて、晴れて七十一カ国目に入国。縦断、完了だ。

パナマ市では魚市場へ。レストランが並ぶ中、最初に呼ばれた店に入る。ビールを頼むとセビーチェが前菜でサービスされ、メインは大きな揚げ魚に、ココナッツとガーリックのソース。シュリンプと野菜、米までココナッツだ。美味い。日本がこの国の運河に大きく貢献していることも、市場のそばで知った。

揚げ魚のココナッツ・ガーリックソース
PANAMÁ — 揚げ魚にココナッツとガーリック

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DAY 12–13 / 復路 / HOMEWARD

帰路 / Homeward

2026.03.07(土)— 03.09(月)成田着

「旅は終わり、問いだけが残る。」

帰りはパナマからグアテマラ、メキシコシティへと飛行機で戻る。グアテマラでの乗り継ぎは二時間しかなく、その間に出入国もチェックインも済ませる、なかなかリスキーな行程だった。メキシコシティでは空港内のカプセルホテルに一泊。工事中の通路に何度もたらい回しにされ、空腹で倒れそうになりながら、発狂寸前でようやく辿り着いた。

メキシコシティ空港のラウンジ
MEXICO CITY — アポロ計画みたいなラウンジ

最終日はビジネスクラスで成田へ。十五時間のフライトは、好きな時に好きなものを食べられる。久々の和食に獺祭、牛丼に赤ワイン、締めに豚骨ラーメン。バド・パウエルとモーツァルトを聴きながら、本を読み、ジャーナリングをじっくり。"成田—メキシコシティ" はANAマイルの大穴場で、これからも毎年、熱海合宿のあとに通うことになりそうだ。

ビジネスクラスの和食機内食
VUELTA A CASA — ビジネスクラスで、久々の和食と獺祭

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俺の旅人生は、二十四歳の世界一周に始まる。大学四年の夏、オーケストラのヨーロッパ演奏旅行でジャズピアニストの山下洋輔さんと共演し、「石田くん、旅をすると素晴らしいことがたくさんあるんだよ」と言われた。その一言が忘れられず、帰りのエールフランスで、就職活動をやめて旅に出ると決めた。あれから三十年。長い夜行バスの中で、これからの三十年を考える時間を、たっぷりもらった。三十年前にITが時代を変えたように、今もそれ以上のインパクトで世界が変わろうとしている。これまで通りでは、意味がない。まったく新しいことをする必要がある。この旅は、その礎になる。

— Q / 来年もまた中南米。次は南米かキューバあたりで。